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橘さんの指先が自然に私の唇に触れて、橘さんの言葉の意味を理解する。橘さんの気持ちを疑っている訳じゃなかったのだけれど、気持ちが不安定な時には小さな不安も育ちやすい。
それでも橘さんは私が不安にならないくらいの想いを伝えると言ってくれる。言葉で行動で伝えようとしてくれる。
自分の中で小さく芽を出していた気持ちがハッキリとした形を成していく。この感情に名前をつけることが出来る。
こうして何度も何度も想いをぶつけられていたら、私だって負けられないじゃない?きちんと答えられるようになって、今度は私が伝えたい。
でも、その前に私にはきちんと答えを出さなきゃいけない人がいる。長年私を思い続けてくれて彼ときちんと話をしたい。今の私の本当の気持ちを。
「今はいいです。でも、ちゃんと私が橘さんの気持ちに応えられる時が来たら……その時はお願いします。」
「は?それって……」
「もういいですよね、私が今言える事はここまでなので!もう寝ます。おやすみなさい!」
それだけ言い切ると布団を頭まで被って目を瞑る。これだけ言えただけでも私は頑張ったと思うわ。瑞樹君の時にはこれっぽっちだって気持ちを正直に表すことですら出来なかったんだから。態度でバレバレだったみたいだけれど。
「ちょっ……オイ。はあ、期待するからな、俺は。」
すればいいわよ。勝手に期待でも何でもすれば。私に気を使って、そっと部屋から出て行く橘さんの足音を聞きながら熱くなった頬を何度も撫でていた。
頬の熱さがひいてから、ゆっくりと頭の中の考えをまとめていく。私が風邪が治ったら一番始めにしなくてはいけない事。
私は彼の携帯番号も知らない。彼が会いに来るまで待つか、それとも瑞樹君に頼んで連絡を取って貰うか。
彼の望む返事が出来ない事は心苦しいけれど、自分の気持ちには嘘は付けない。
これ以上返事を待たせるのは止めよう。そう考えている間にウトウトしてきて静かに私は夢の中に落ちていった。
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