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「初めまして。橘 忍です。」
笑顔で差し出された右手を叩き落してやりたい衝動をぐっと堪える。
初めましてですって?
その顔も、その声もまだ忘れられる程の日数は経ってないと思うわよ?
「初めまして。柴山 祥子です。」
負けじと微笑み返して、思いきり手を握り返した。
くっ!ゴツゴツして硬くてこっちの方が痛くなる!
「透子さんの妹さんだけあって、とても可愛らしい方ですね。」
ほう?チビのガキだとあの時はおっしゃいましたよね?
嘘くさい笑みで思ってもいないことを口に出来るのが、社会人の顔というのだろうか?
「ありがとうございます。そう言っていただけて鳥肌が立ちそうです。」
ここは会社でも何でもない、自分の気持ちを我慢することなんてないの。
「面白いことを言うんですね、祥子さんは。」
橘さんに名前を呼ばれた瞬間、背筋がぶるりと震えた。
余計な事を言うなとばかりに笑顔を割り増ししてくるのは止めてください。
横を見ると瑞樹君が笑いをこらえている姿が見えた。
そうか、橘さんだけではなく私も彼の玩具だったのか。
きっと私たちの相性が悪い事を分かっていてこの場をセッティングしたのだろう。
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