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「早速仲良くなったみたいで良かった。」
私たちの間に流れる不穏な空気と、瑞樹君の不自然な笑みに全く気付かない姉が怖ろしいことを言う。
「そうだね。透子、橘さんに祥子をお願いして僕たちは2人で回ろうか。」
ほら、悪魔がここぞとばかりにとんでもないことを言い出してきたよ?
「「は?」」
2人の声が綺麗に重なる。きっと今私たちは同じ気持ちだろう。
『今すぐに帰らせてください』って。
「橘さん、祥子をお願いしていいでしょうか?」
そう姉が頼むと、橘さんは少し考えて「もちろんです。」と笑顔で返事をした。
ああ、そうか。橘さんは姉に会いたくてここにいるのだ。
橘さんの気持ちは分からないではない。姉は美しく、おっちょこちょいな性格だがそこが可愛らしい。私と違って胸だって大きい。魅力的すぎるのだ。
どうして姉を好きな橘さんを瑞樹君は連れてきて、瑞樹君を好きだった私と行動させようとするのだろう?
「祥子、勝手に決めちゃったけれど大丈夫?」
私の気持ちを確認してくれても、きっと私には選択肢なんてない。
「私は―――大丈夫だよ。橘さんと回るね。」
上手く……笑えただろうか?
腕を組んで歩いていく二人を見つめて、まだ胸がこんなに苦しくなるのだと気付いた。
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