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「不細工な笑顔。もうちょっとマシな顔で透子さんを安心させてやれねえの?」
分かってるわよ、そんなこと。姉が去ったとたんに本性を出した男を睨む。
「好きな人に素の自分も見せられない人には言われたくないわね。ご立派な社会人の顔をお持ちで。」
私だって黙って言われるつもりなんかない。男はみんなそうだ。美しい姉の味方ばかりをする。
「相変わらず可愛くねえな。透子さんと同じ親から生まれたとは思えねえよ。」
この男は私が何を言われたって傷付かないとでも思っているのかしら?
「そうね、私もそう思うわ。」
何度も何度も言われた。比べられた。私と姉を比べなかったのは瑞樹君だけ。
『透子も祥子も可愛いよ。』
何度もそう言ってくれた。そう言って頭を撫でてくれた。
彼が選んだのはやっぱり姉だったけれど。
「違ったならば良かったのかしらね?」
橘さんを喜ばせるのは悔しいからとびきりの笑顔を見せた。
すると橘さんは上着を脱いで私の頭から被せた。
「あー、お前泣き虫だったな。ホント、面倒くせえ。」
彼の声がいつもより優しく聞こえた。少しは罪悪感を感じたのだろうか?
「泣いてないし……。」
それでも少しだけ嬉しかった。
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