花火大会に誘われる

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花火大会に誘われる

「藤林さん、丁度良かった。今、いい。」  爽やかな笑顔、優しい声で、見たことあるイケメンの高校生が、私に声を掛けてきた。並みの女ならこれだけでも、落ちるかな。 「え~と、どこのどなたですか。」  私の素朴な疑問に対して、そのイケメンの様子がとても面白かった。 『学年一のイケメン、モテ男の僕を知らないのかい。信じられない。』  心の声が漏れている。 「僕の名前は、織場承太郎。ジョウって呼ばれている。そんなことより、藤林さん。今日の花火大会、一緒に行きませんか。」  そう、来たか。この名前からしてエセ・イタリア男め。  確かに、八月十七日のデートは熊野に住む乙女にとって特別な意味を持つ。 熊野大花火大会が行われる日だから。  三百余年の伝統を誇る、熊野大花火大会は、お盆の初精霊供養に簡単な花火を打ち上げ、その花火の火の粉で灯籠焼を行ったのが始まりとされている。  見所が三つあり、他では味わうことができない大迫力で、日本でも有数の花火大会にランクインされている。    過去最高、二十万人の観衆を記録したことがあるくらいだからね。  そんな花火大会だけど、どんなイケメンの男に誘われても、私の答えは決まっている。  
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