開けてビックリ

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開けてビックリ

 私たち母娘が住む家は、喫茶店の二階だからどんなに遅くなっても安心だ。夜道で襲われる心配はないもんね。自宅を知られるというリスクは、毎月高いお金を払ってセコムで対処している。  まがりなりにも、駅前の一等地、こんな一戸建ての立派な家に住めるなんて、不思議だよね。   さて、その翌日、八月十七日。いよいよ熊野の最大イベントの日がやって来た。そして、あの謎の男も約束通り、やって来た。それも、わざわざ開店時間の八時十分前にね。  カランコロカラン 「邪魔するぜ。ママさんは、まだかな。」 「オークワに買い出しに行ってます。もうすぐ戻るけど。」 「ふ~ん、じゃあ。これ渡しといてくれや。邪魔になってしょうがない。」  男は、いかにも面倒くさそうに、手提げ鞄から風呂敷包みを私に手渡した。 「はい、ありがとうございます。」  自分で渡せよとは、とても言えない流れだった。大人しく預かるしかない。 「それと、これは、おまえにだ。」  男は、高級そうな宝石箱を出してきた。 「どうして、私に。」  あれか、将を射んとする者はまず馬を射よか。私は、馬かい。 「いいから、開けろよ。」  私の不満そうな顔にイラついたらしい。 『偉そうに、何様のつもりよ。馬に蹴られて死んでしまえ。』  私は心の中で呪いの言葉を吐いた。  しかし、開けてビックリ、宝石箱。テレビやファッション雑誌で見たことある有名店のジュエリー。自然界のモチーフを多く使っていたため自然主義と呼ばれることがあるが、見事な出来栄えのフラワーモチーフのブローチだ。洗練されたお花のデザインに、名前は知らないが綺麗なピンクの宝石と小さなグリーンの宝石が放つ煌めきは上品だ。 「わあ~、素敵。ありがとうございます。」  不覚にも私は、喜びの声を上げてしまった。  今まで、男どもからプレゼントされたことは数多くあるけど、こんなに素敵な物は初めてだ。きっと、高いに違いない。 「喜んでくれるかい。」  男は、心から嬉しそうだった。ガチで笑顔が輝いている。  それから、男は、東京タワーの天辺からバンジージャンプをするかのように、深呼吸をした。覚悟を決めた様子だった。
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