大笑いするママ

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大笑いするママ

「只今~。ねえ、今のお客さん、橋村さんだろう。」  そこへ帰ってきたママに、私はここぞとばかりしがみついた。 「ねえ、ママ。聞いてよ。」  私は、開店前に現れた男から預かった風呂敷包み、私への誕生日プレゼント、そして橋村の親分さんとの経緯を事細かく説明した。  NHKの青年の主張ぐらい、真剣だったのに、ママったら酷い。大笑いしている。 「橋村太郎で、ハム太郎ってかい。クックックッ。若が若林で、親父が読書家ってかい。アハハハ。もう、無理。超ウケる。」 「ねえ、ママ。怒るよ。あいつ、何者よ。」 「ごめん、ごめん。これだけ笑ったのも、久しぶりだわ。ちょっと、待ってね。」  ママは、レースの白いハンカチで笑い涙を拭き、必死に呼吸を整えた。 「あの男はね、私が昔、東京で命を助けた男の息子さんさ。今だに恩を忘れずにいるんだろう。律儀だね。」  ママは見たこともない変わった桜の花びらが散りばめられた模様の風呂敷の中身を見せてくれた。銀座に本店を構える有名な菓子店の「二十四節花」のおかきだった。それぞれに和の暦に由来する二十四節気に見ごろを迎える花と、花にまつわる俳句が描かれている。  私は、ジッとママの顔を見つめた。子供の頃は、「熊野の赤ちゃんは八咫烏が運んでくる。」「うちは、セコムがしっかりしているから、サンタクロースはやって来ない。」「夜遅くまで起きていると、獅子岩の横の人面岩が化けて出てくる。」など、よく騙されたが、高校生となった今では、ママが嘘をついているかどうかわかる。  どうやら、これは嘘ではないようだ。でも、何か秘密を隠しているような気がする・・・。
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