第6章 平和

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「犯人は予め準備していた警察官の制服を着用後、能力の“油”でリビングを燃やし…」 鷲見の葬儀の日、待合室のテレビに物井が“連続強盗犯 逮捕時の様子”というテロップと共に映っていた。 逮捕に何も貢献していない物井が我が物顔をしながら話す事よりも、部下の葬儀に参列せず画面の向こう側に居る事が、創地にとって信じられなかった。 「物井課長が…もし班員全員出動させてたら…」 風間は声を震わせながら呟いた。 班員には緊急時に備え、水を扱う能力者も含まれていた筈だった。 しかし、それはただのお飾りにすぎず、物井は緊急時の出動より、本来一般警察官が行う筈の捜査を主軸に命令を行っていた。 勿論“班員の安全”もただの言い訳だ。 本当の理由は物井が一般警察官から出世した人物だったから。 一般警察官が捜査第一課の課長になる事は珍しく、同時に、いつ特殊警察官と交代させられるか分からない状況だった。 部下の昇格を遅らせたい物井と、窮地を経験せずに、ある程度のポジションへ配属されるエリートヒーロー達。 捜査第一課のヒーロー達が無力化するのに時間はかからなかったのだ。 創地はヒーローを気取った物井をこれ以上見る事が出来ず、テレビのリモコンボタンを押した。 プツンと暗くなる画面に風間と創地の姿が反射した時、創地は自分の表情を見て背筋が凍った。
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