第一話

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第一話

「お前は産まれた時からワカメまみれだったのか!」 「そうよ!私ワカメまみれだったのよ!」  部屋の中から激しく口論する声がする。そして部屋のドアから明らかに異臭がただよっている。再び怒鳴り声だ。 「いい加減にしろ!このワカメまみれ女が!畜生!何てものを俺に押し付けたんだ!こんなの人気アイドルにするなんて無茶にも程があるぜ!」  二人が怒鳴りあっているのはテレビ局の楽屋である。男の方はかつての敏腕マネージャー、(いかり)亀夫だ。女は売り出し中のアイドル、そしてこの女こそ我等がヒロイン!海草夏子なのだ!  彼女はワカメを頬張りながらしながら必死に抗議していた。 「絶対フルマンにワカメ巻いてテレビに出るんだから!ワカメじゃないといやなの!」  マネージャー碇は怒鳴りつけた。 「いい加減にしろ!只でさえ臭すぎるのにワカメだと!このデブチン女が!一体何を考えているんだ!」  碇の手が震えた。どうしてだ!どうしてこんなブッサイクな、ワカメまみれのデブチンを俺に押し付けたんだ!碇は絶望的な気分になった。  しかし、このワカメ女ときたらそんな事は気にも留めず、ワカメを壁にくっつけては食べまくっていた。ワカメを優しく頬張る。指で掬う。天使のような微笑みで食べまくる。夏子はワカメをじっとみている。そして故郷を思い出していた。
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