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前世の俺。
「………なんで……こうなった………」
そうポツリと呟くと。
姿鏡の前でズルズルと座り込んだ。
目の前にあるアンティーク調の姿鏡に映り込んだ姿は……腰まである長いサラサラな黒髪。顔を見ると少し目尻が吊り気味な淡いアメジストの瞳に、小鼻はスッとしていて肌は色白く、唇はプルっと赤く艶やか。
そして身体は………無駄に大きい胸に腰は細く、足はスラリとして長い。
目の前に映る女性は日本では見たこともないような美女。
同性なら羨ましいはずのその姿に。
今は絶望を隠しきれない。
記憶の中では…。
俺は「男」だった、はず…。
いや、絶対に『男』だった……。
「これから俺は…どうしたらいいんだ……」
どうにも出来ない事態に俺は頭を抱えながらポツリと呟いた。
俺の名前は『神埼 歩』
性別、男。歳は17歳。職業は未成年だからもちろん、高校生。
日本生まれで、ごくフツーの家庭で生まれ育った4人兄妹の長男。
両親、中学生の双子の妹と小学生の弟がいる、いわゆる大家族と呼ばれる家庭で育った。
家は代々から続く和菓子店で、作る和菓子はデパートにも出店している程の老舗で顧客も多く、繁盛している。
その歴史ある老舗和菓子店を守るために、両親は数人の従業員と共に早朝から仕込みを始めて仕事をしていた。
そんな名家に生まれた俺は秀でたものはないものの、自分で言うのもなんだが、そつなく物事をこなすタイプで、小さい頃から忙しい両親の代わりに家の事を進んで手伝っていた。
そして中学生になる頃には家事、兄妹の面倒は全て俺が見るようになっていた。
家族の健康のために食事は特にこだわり、毎日三食、学校に持っていく弁当も朝食と同時進行で作れる程の腕前になっていた。
まぁ……母親の料理が激マズ、親父は和菓子以外は味覚オンチのせいもあり、俺が率先して作った方が旨かったってのもあるけど…。
そんな苦労人?な俺に友人達は『子持ちの主婦』みたいだと散々からかっていたが、そう言っていた友人達も時々、家に来ては妹や弟の世話をしてくれた。
本当にいいヤツらで、恥ずかしくて口には出せないが心から感謝している。
そんな俺の毎日は家族や友人に恵まれていたおかげで、それなりに充実していた。
だが………。
その穏やかな日々がすぐに終わりを告げた。
それは突然だった。
友人達とたわいない話をしながら家に帰る途中に起こった。
友人達と次々に別れて残ったのは俺と親友の諒太だけになった。
諒太は……高校からの友人だが、イケメンの割に口数が少なく、出会った頃は特に近寄りがたい雰囲気を持っていた。
そんな諒太の前の席にたまたま座っていた俺は長男気質のせいか、周りから浮いている諒太が気になり、放って置けず…。
前の席のよしみ、という事で俺から何度も話し掛けて…いつしか友人になり、気付いたら親友と呼べるまでの仲になった。
……諒太って、なんか放って置けないんだよなぁ…うちの弟みたいで…人見知りっぽいしなぁ……。
まぁ、この話はひとまず置いといて……だ。
親友の諒太とたわいもない話をしながら信号待ちしていると突然、背後から衝撃が走った。
すると俺の体は車が行き交う道路へと突き飛ばされてしまった。
えっ…!?
突然の事に反応出来ず。
「「「 危ないッ!!!! 」」」
隣にいた諒太の俺の名を叫ぶ声と同時に、青信号を待っていた人々の大声が聞こえ、前を振り向くと、どんどん近付いてくるトラックの慌ててブレーキを踏む音が周囲に響き渡り。
その瞬間。
バンッという音と共に。
体に衝撃が走り、俺の体は人形のように宙へと舞った。
え………俺、轢かれた……?
スローモーションのようにゆっくりと時間が進み……気付くと宙を舞った俺の身体は地面に激しく叩きつけられた。
痛い、痛い、痛い………ッッ!!
車との接触で身体中に激痛が走る。
吹っ飛ばされ、道端に倒れるとどこからか流れてくる大量の血。
そして…………動かない自分の身体。
俺は。
俺は……死…………死ぬのか……?
呆気ない人生の幕引きに…今まで生きてきた中での出来事が次々に浮かんでは消えていく。
朦朧とする意識の中で側に座り込んで俺の名前を悲痛な声で泣き叫ぶ諒太の声が聞こえる。
「きゃあああッッ!!」
「……きゅ、救急車だ!!子供がひかれたぞ!!」
「だ、誰か!!医療関係者いないか!!!!」
周囲が慌ただしく騒ぐ中、諒太の瞳から嗚咽と共に、止めどなく涙が溢れて落ちていく。
諒太……泣くなよ…。
イケメンが台無しだぞ……。
俺……先に逝くな……お前と友達になれて良かった……。
痛みに耐えて笑おうとしたが、唇が微かに震えるだけで声が出ない。
……父さん、母さん、ごめんな。
奈々、里奈、航太…幸せになれよ…。
それを最後に。
救急車やパトカーの音が段々聞こえなくなると瞼がゆっくりと落ちていき…………。
意識も薄れていった。
どうやら、俺は。
死んでしまった………らしい…。
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