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目覚めたら……。
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──────……
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう……。
突然訪れた『死』に。
受け止める余裕もなく、意識を失い…その後、瞳を閉じると暗闇の中に俺はいた。
死後の世界なのか、辺りは何もなく。
静寂に包まれていて、思わずゴクンと喉が鳴る。
そんな不気味な雰囲気に怯えながら、とりあえずキョロキョロと辺りを見回した。
……何もない。
何もないって事は……ここは地獄?
俺、地獄行き決定…!?
おいっ、待て待て……。
俺、特に悪い事をした覚えはないぞ。
割と優等生だった記憶しかない。
なのに地獄行き決定なのか!?
それなら生きている間に悪い事すりゃ良かったじゃん!!
やった事といえば……。
日替わりの激安商品の卵1パックを妹弟を連れてきて4パック買い占めた事とか。
もしくは諒太の事か?
今は彼女を作る気はないと宣言しているにも関わらず、告白してくる女子が後を経たないから諒太にお願いされて近付けないようにした事とか……。
いいよなぁ~諒太の奴。
俺、告白された事ないからな…。
チッ。イケメンのクセに…実にけしからんな。
俺なら…とりあえず可愛い子と付き合ってリア充すんのにな…あの贅沢モンめが……。
やべっ、本音が出ちまったww
あとは…う~ん……航太のやりこんでいたゲームを暇な時にこっそり進めていた事とか。
小さい事なら割とやってんな俺…。
でも俺のした事はたいした事ないような気が…。
そう思いながら両腕を組んで、生きていた時にしていた悪い事を思い出すように考えを巡らせていると、離れた場所から微かに人の声が聞こえてくる。
それも低い声。
その低い声がだんだんと大きくなり…。
暗闇だったはずの視界が薄れていき…
そして───────
スッと瞼が開くと光が目の中に入ってくる。
…………あれ?
俺……生きてる…?
そんなバカな…。車に轢かれた時の衝撃、体の損傷による痛みはリアルだったはずだ。
なのに……俺、生きてる……。
思わぬ幸運に俺は感極まると…目頭が熱くなって涙が頬を濡らした。
……俺はまだやりたい事がたくさんあった。
何一つ叶えられないまま、人生を終わらせたくなかった…。
だから生きていて……嬉しい。
嬉し涙が止めどなく溢れて俺は静かに目を閉じた。
……リハビリが必要だな…。
なんせあれだけの事故だ、足の骨は折れてるに違いない。
もしかしたら全身打撲かも?
それでも生きている奇跡を噛み締めていると俺の目の前に奇抜な髪の色をした中年男性がジーッと俺を覗き、見つめていた。
緑の髪!?
見たことない髪の色に驚いていると、その中年男性の横には白衣を着た白髪のじいちゃん、そのじいちゃんの横にはメイド服を身につけたピンク色の髪をした可愛い女の子が驚愕の表情を浮かべ、俺を見つめている。
……誰だ、この人達……?
動揺と目の前の現実にしばし混乱する。
…あれ、もうハロウィンの時期か…?
映画で見た、中世ヨーロッパにいそうな風貌や服装に頭の中がパニックになる。
目の前の状況にイマイチ理解出来ないし、ついていけない…。
言葉をかけようにも、まず日本語通じるのだろうか……?
俺、フランス語もイタリア語も話せねーぞ。
英語も苦手だし!!
この状況で日本語が通じなければ……とりあえず。もう一度眠ってみるか。
確実な方法かつ簡単なのは、頭打って気絶すりゃ目が覚めるって方法だよな…。
せっかく生き返ったのに力加減を間違えたら俺、今度は永遠に目覚めないだろうな…きっと……。
顔をひきつらせながらベッドに横たわってだんまりしていると、緑色の髪をした紳士風な男性に抱き起こされ、ギュッと抱き締められた。
「愛しい我が娘よ……生きていて…本当に良かった……」
号泣しながら力強く抱き締められ、混乱する。
ん……?…………いま、なんつーた?
俺、聞き間違えたかな……。
確か『娘』って言ってなかったか…?
見知らぬオッサンに抱き締められながら固まる俺に今度はピンク髪の美少女メイドが涙ながらに駆け寄り、俺に言葉を掛けてくる。
「エミリアお嬢様あぁ!!良かった………本当に良かった……!!」
号泣し、俺を囲う二人の背後に医者らしき白衣のじいちゃんが不思議そうに俺を見て呟く。
「……信じられない…毒を飲んで生き返るなんて……明日が峠だったのに……すごい奇跡だ…」
驚愕の表情を浮かべつつ、感動している姿に更に混乱する。
違和感ありまくりで固まっていると、ドア横の壁に背を預けた銀髪の同年代の男が目に映った。
その男の容姿にギョッとする。
銀髪の襟足長めの髪を結い、透き通るようなアイスブルーの瞳、端整な顔立ちをした、俺と背丈の同じくらいのイケメンが俺を睨むようにジッと見つめている。
その瞳は冷たく。
俺を嫌悪しているようだった。
「チッ………悪運の強い女め…」
ボソッと呟いた声は聞こえなかったが、あれは絶対に俺に対する悪意だと感じた。
なんだよ、イケメンの割に感じ悪ぃな…。
同じイケメンでも諒太の方がいいな。
あいつは物静かだけど、小さな事に気が利くし、居心地が良かったからな…。
親友の顔がフッと思い浮かび、笑みが溢れる。
…………それより、だ。
さっきから気になっていたんだが……『エミリア』って一体、誰だ…?
そして……ここはどこなんだ…!?
キョロキョロと辺りを見回しても『女』はピンク色の子しかいない。
その女の子は俺を『エミリア』と呼んだ。
そして目の前の緑色のオッサンも……。
まさか……な…。
嫌な予感がよぎる。
「エミリア、どうしたのだ…?顔色が悪いぞ?」
黙った俺の顔色が悪かったのか、オッサンが俺から離れ、白衣のじいさんに話かけている。
俺は緊張しつつ、手足や身体へと視線を落とした。
するとすぐ下には男の俺にはついてないはずの胸、黒い長い髪、細い腕……。
しかも胸、デカくね?
思わずジッと胸をガン見し、本物かどうか触って確かめようか思い悩むとピンク色髪のメイドがギュッと俺の両手を握りしめる。
「エミリアお嬢様……ギルバート殿下もお嬢様の事を心配なさってましたよ…毒の力にも打ち勝つなんて…!きっと愛の力ですわ!!あと1ヶ月、婚約パーティーまでにはこのマリアめが!!お嬢様を磨きあげますからお任せ下さい!!」
キラキラした瞳で俺の手を握ってくるピンク髪の可愛い女の子の迫力に負けて……思わずコクンと頷いた。
俺、どうやら。
男から女に生まれ変わった、らしい……。
俺の息子よ、どこ行った……(泣)
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