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信頼を得るには…。
な、なんか、この雰囲気……。
変じゃね……?
目の前のギルバートから目が離せなくて。
変な緊張感に心臓の鼓動が波打つ。
俺を見つめるギルバートの瞳は揺らぐ事がなく、真っ直ぐで。……きっと嘘をついたとしてもバレてしまう予感がする。
ギルバートの問いから逃げる事が出来ないと悟った俺は決断を迫られて……悩む。
どうせ、信じないだろう。
元男で、死んだら何故か女の体に乗り移ってしまってる上に、この世界の人間ではない、なんて……さ。
俺ですら信じないし、信じられない。
だからこの場さえ凌ぎきればいい…。後の事はそれから考えるだけだ。
それまでは利用できるモノは出来るだけ利用したい……。
強かに生きなければ…。
例え、目の前のコイツが嫌いだとしても。
コイツは皇子様だし、媚売る相手としては申し分ない。
ただし、変なコトをしなければ…の話だけど……。
迷いながらも後がない俺はグッと歯を食い縛り……覚悟を決めた。
「……俺は…俺の名は…神崎 歩。信じないと思うけど、男だ…」
緊張な面持ちで名前を言う。
自己紹介でこんなに緊張したのは初めてだ…。体温が上昇して……心臓の鼓動も早くて、息を吸うことすら苦しい。
目の前のギルバートの様子を狼狽えながらチラッと見る。
当のギルバートは困惑の表情を浮かべて、何か考えてて……そして口を開いた。
「やはりそうか……。エミリアではないのは、なんとなく気付いていたが…。カンザキ?アユム?…この国にはない名だな……お前はどこから来た?」
眉間にシワを寄せながら問いつめられて。
思わず体がすくんだが……。
ここでギルバートの信頼を得ない事には、俺がここで生きていくためには絶対に必要だから怯えて逃げるわけにはいかない。
「……この世界じゃない、別の世界から来たって言ったら……お前は信じるのか?」
「……信じないな。だが…お前が【迷い人】の可能性はある…。迷信だと思っていたが…百年毎にあると王家に伝えられている……」
迷い人……。
まるで異世界漫画や小説みたいな事が現実に起こっていたなんて……信じられない…。
「迷い人……それが俺なのか?」
「それは…オレには分からんが…王家に関わってくると幼き頃から伝えられている…」
「じゃ……じゃあ!!その迷い人は元の世界に戻ったりとか…出来るのか!?」
「さぁな。オレは生まれてないから過去は知らん。………ただ、前者はこの地で王の嫁として子を成して生きて。もう、とっくに亡くなっているしな…」
「……そ、そんな…」
元の世界に帰られるかも……なんて淡い期待も、すぐに意気消沈する。
例えエミリアの姿だとしても…。
この世界に生きるよりはマシだと思ったのに……。
わずかな希望すら期待も打ち砕かれた今、絶望だけが心に広がる。
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