魔王の城前道具屋 最強バイト ―あいつと俺の友情物語―

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「……何をいっているんだ、あんたは?」  俺が周りを見ると、オークの戦士、コボルトの僧侶、そして狼男の武闘家がいた。  何これ、これが冒険者? こいつらが? こいつらむしろモンスターじゃないの? 人間はいないのかよ? どうなっているんだ? こいつら他のゲームと間違えているんじゃないの? と俺が思っていると後ろから声がした。 「ハハハ、無駄だ勇者たちよ。そんな商人をつれてきた所で魔王である私は倒せないぞ」  魔王? 今、魔王って言った!? 魔王って一人しかいないよな。 俺が後ろを振り向くと高そうなローブに宝石を散りばめた王冠、手には赤いオーブ――高そうだな、俺は道具屋でバイトしているから知っているけれど、あんな高そうなのは見たことがないぞ――の杖を持った耳の尖った人間が立っていた。  あれ? 人間? なんで魔王が人間なの? むしろこっちが冒険者だろ? そもそもこいつは魔王なのか? 魔王はいつもは魔王の城の奥深くにいるから道具屋のバイトの俺は見たことがない。  何で魔王がこんな森の中にいるんだ? 散歩でもしているのか? あれ、今、俺頭の中で色々な考えが次々に浮かんでは消え、浮かんでは消え、まるで走馬灯のようにぐるぐると頭の中を色々な映像が巡っている。走馬灯を見るのは人が死ぬときってよくいうよね。ということは俺死ぬの? 何で? あいつが魔王だから? 「おい、ケンジ危ないぞ、伏せろ」  オークの戦士が俺に向かって言う。俺ケンジじゃなくてサトルなんですけれど。まあ、とりあえず言われた通りに伏せて見るわ。人の忠告には一応したがっておかないとね。俺って素直な人間だからさ。  伏せた俺の頭上を強大な火の玉が通り過ぎ樹齢800年を超えるであろう巨大な木に当たって、木を火に包み、炎上させ、一瞬にして黒焦げにしてしまった。    何あれ。すげえ、あんなの見たことないぞ。あんなことが出来るってことはやっぱりあいつが魔王なのか。ということは、こっちのモンスターグループが勇者達か。もう何だか頭が混乱してきたぞ、意味が分からん。もう知らないよ俺、考えるのやめたよ。もうめんどくさいから、俺もやることだけやってさっさと帰るわ。 「お客さーん、困るなあ。ちゃんと物を買うならお金を払ってくれないと。それ、金がないんなら返してくれます?」  俺はダークエルフの彼女の反応を見る。あっ、何やっているんだよあの女。俺の昼飯のアンパン食べてやがる。ちっくしょう、朝3時から並んでやっと手に入れたアンパンなのに。あれを手に入れるのに俺がどんだけ早起きしたのか分かってんのか? この辺は物騒だから、アンパン一つ手に入れるにも大変な苦労をするんだよ。それを勝手に食うなんて……。  あーもー、こうなったらあの女から金を取り立てるしかなくなったじゃないか。ダークエルフの女か、金は持っていなさそうだな。まあ、持っていたら万引なんかしないだろうけどな。  ということは、金を取り立てるためには、あの女をどこかで働かせて金を払ってもらうことになるわけだが、3万1千ゴールドもの大金ともなると、水商売で働いて返してもらうこと以外思いつかないな。だってそうだろ。若い女性が大金をかせぐといったらそれしかないじゃないか。どうすんだよ俺、そんなことはしたくはないぞ。  ……くそう、やるよ、そのアンパンをタダでやるよ。そのかわり薬草だけはちゃんと返してもらうからな。 「お客さーん。その薬草…………うわっと、危ねー」  またもや魔王が俺にぶつけようとして火の玉を飛ばす。それをとっさの反射神経でなんとか俺がかわす。  何だよ。何であいつ、俺ばかりを狙うんだ。狙うんならあっちの勇者たちでしょ。こっちはただのバイトなんだからさ。  俺なんか魔王の恨みを買うようなことをしたっけか?  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加