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その次の日、いつものようにバイトに行こうとしていた俺は魔王のあいつが森の中に入っていくのを見つけた。
あいつ、昨日俺に倒されたのに、また一人で森の中に入っていくなんて危ないな。昨日の事を忘れたのか? 危機管理能力とかないのか? 不思議に思った俺は魔王の後をこっそり付けていった。
まだバイトの開始まで時間があるしな。俺はこれでも結構まじめだから店が始まる1時間前には店に行っているんだ。別に友達がいなくて暇だから早くいっているわけじゃないぜ。
ふむ。昨日あいつとあった所だな。あいつ何やっているんだ。割れた岩を集めて置いているな。あいつ潔癖症か何かか、部屋の中の物の位置がいつもとちょっとでも違っていると気になる、そんな奴たまにいるんだよな。ちょっとでも置いてあるものの位置がずれていると気になって仕方がないとか言うアレだ。だから元に戻しているのか?
何だ、岩の前に花を置いているな。森の中だから花なんかその辺に咲いているだろう。何やってんの? そんなことに意味あんの? あー、岩に水とかかけ始めたな、何あれ、確か仏教かどっかの国であんなことをしている所をテレビで前に見たな。親の墓参りとかの時にやるんだったな。あいつ、岩の前で跪いて泣きながら何か言っているな。「――ごめん」とか何とか。…………ああ、そうか。そういうことか。
「おい、何やってんだよ」
「――うわって、勇者ケンジか。……やっぱり私を殺しに来たのか?」
「違うわ」
「じゃあ、何だよ」
「それ、お前の父さんの墓か?」
「ああ」
「何でこんな所にあるんだ。魔王の墓っていったら、もっとデカイ神殿かピラミッドみたいな所にあるんじゃないのか?」
「父さんがここが良いって言ったんだよ」
俺が首をかしげる。
何で? こいつの親父が変人だからか?
「父さんが――あいつ、お前の父さんに倒された後、瀕死の状態でここまで自分を連れてきてくれっていったんだ。だから私は父さんをここに連れてきたんだ」
「ふむ、ふむ、それで」
「子供の頃からよくこの森で遊んでいて、この場所がお気に入りだった父さんがここに自分の墓を作ってくれって言ったんだよ」
「ふーん。それで」
「私は父さんのために大きな神殿を建ててやるっていったら『やめてくれ』って言ったんだ。そんなことをしたらここにある綺麗な風景が壊れてしまうって。だから墓石だけ置いておいたんだ」
「なるほど」
「この辺よく冒険者が通るだろ」
「ああ、通るね。レベルの高い奴らがね」
「だから、奴らに見つからないように普通の岩を置いておいたんだ。神殿やピラミッドのかわりにね。だって魔王の墓なんて奴らが見つけたら、掘り返して宝物とか奪おうとするだろうからな」
「あー確かに、分かる」
魔王がじっと俺を見る。
何でこいつは急に黙り込んだんだ?
「それで」
「それでって」
「お前は何か用事があってここに来たんだろ」
「別にバイトに行く途中でお前にあったから、ちょっと後を付けてきただけだよ」
「……そうか」
「そうだよ」
「……」
「じゃあ、俺バイト行くわ。じゃあな」
「ああ。じゃあな、ケンジ」
あっ、俺昨日あいつの父さんの墓石を真っ二つに割っちゃったじゃないか!! それで昨日あんなに怒っていたのか。
どうしよう? 悪いことをしたな。
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