魔王の城前道具屋 最強バイト ―あいつと俺の友情物語―

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 まず自己紹介をさせてくれ。  俺はサトル、歳は21歳だ。  俺は道具屋でバイトをしている。その店は他の店とはちょっと違う。  普通の店は冒険者たちに仕入れた色々な道具に利益を上乗せして売って稼ぐ。俺の働いている店が他と違うのはその上乗せする利益が他の店よりも多いということだ。  どういうことって思ったでしょう? つまりボッタクリをしているわけだよ。冒険者の稼いだ金をピンはねするために、たっぷりと利益を上乗せしてボッタクリ価格で道具を売りつけるのがうちの店のやり方で、そこのバイトが俺の仕事ってわけ。  皆んな思うよね、そんなボッタクリ価格で誰が買うのって? 「そんなボッタクリ価格で買うくらいなら他の店で買うわ」とかお客さんが言うんじゃないのって。それでその店潰れてしまうんじゃないのって。  そこが俺の店の凄い所なんだよ。凄いっていっても商売の仕方が凄いわけじゃないんだ。店のある場所がすごい場所なんだよ。うちの店は魔王の城のすぐ手前、超危険地帯にあって、これまでバイト帰りに何人ものバイトが命を落としているような場所にあるんだ。    周りのモンスター達のレベルはもちろんMAX全開で凡人なら一撃で瞬殺される。けれども子供の頃から実家の道場で鍛えられた俺なら奴らの攻撃をかわすことが出来るわけだよ。  俺って結構素早いからさ。モンスター達の攻撃を素早くかわして、ハグレるーの如きスピードでアパートまで逃げ帰ることが出来るんだ。だからこの店でバイトをしているんだよ。  知ってると思うけれども一応言っておくよ。ハグレる―っていうのは、経験値のものすごい高い、逃げ足の早いあいつのことだ。この世界の奴なら当然知ってるよな。  こんな危険な場所でバイトをしたいという奴はあまりいない、いてもすぐにやられて死んでしまうんだ。それで人手が足りなくなる。だからうちの店は時給がとても高いんだ。その時給目当てでバイトをしているのが俺サトル21歳。俺というのは名字じゃなくて、俺っていう意味。そんなの誰でもわかる? でも一応言ってみただけ。  それでこっからが本題だ。  それは俺がバイトをしていた時のことだった。  ドンッ!! ドンッ!!  何だ、こんな朝早く。まだ店の準備中だって、ドアにかかった準備中のプレートの文字が見えないのか? 無視、無視、今は準備中なんだから。  ドンッ!! ドンッ!!  しつこいな。しつこい奴は嫌われるぜ。あんまりしつこすぎるとな。まあいいわ。店を開けてやるわ、一応こっちも商売しているわけだしな。 「いらっしゃーい」  いつものように挨拶する俺の目に若い女の魔法使い――格好を見る限りはだぜの姿が目に入ってきた。何だ、普通の奴と違うな、耳の辺りとか、ああそうかダークエルフかそれで違うんだな。  ダークエルフが何でこの店に買い物に来るんだ、ダークだから普通はモンスターをやっているはずだろ、モンスターならモンスター専用の店か、人間の家を襲って欲しいものを調達するのが普通じゃないのか? 「あの、薬草をください。出来るだけたくさん」  彼女が必死な表情で真剣に言う、何か訳ありな彼女に「いいっすよー」と軽いノリで返事をする俺、だって仕方ないだろ、相手にどんな事情があったって、俺には関係がないんだから。  オレは店にある薬草をすべて、といっても6個ほどだが、中には湿気ってしまったものもある、こんなの誰が買うのというようなやつも含めてテーブルの上に置いた。  薬草の在庫少ないんじゃないのって思ったでしょう? それには訳があるんだよ。薬草なんかこんな所で買っても仕方ないだろ、薬草の回復出来るHPなんてたかがしれているんだからさ。その程度のHPを回復したって敵の一撃で瞬殺、意味ないだろ、だから店にほとんど在庫を置いていないんだ。  薬草なんて買っても意味ないだろと俺は思ったんだけれども、一応商売だから、俺も大人、社会人だからな。そんなことは表情に出さず「全部で38万ゴールドになります」と接客業らしい返事をしたわけだよ。  そんなオレの顔を彼女がまじまじと見る。マジじゃないぜ、まじまじだ。 「さっ、38万ゴールド!?」  驚く彼女、まあ当然だよな、この反応は。薬草がそんなに高い訳がない。さっきも言ったがこの店では魔王の城の前で困って、弱った、窮地にある冒険者たちにぼったくり価格で商品を売ってもうけを出す仕組みなんだ。だからこんなに高いんだ、仕方がないんだよ。  今、それってひどいと思った? 俺もひどいと思うよ。でもそれが世の中ってものだからな。一応言っておくけれど38万ゴールドっておかしくない? と今思ったでしょ、6で割れないのに。こいつ算数できない? 文字の書き間違え? 薬でもやっている? どれもハズレだよ。そうじゃなくて本当は39万ゴールドだけど、1万ゴールドまけてやったわけ、それで38万ゴールドなわけ。  ボッタクリ店なのにどうしてまけるのって思った? それが俺の良心、両親じゃないぜ、良心だ。最後に残った真心みたいなものなんだよ。だって相手は女の子だからな、まけてやらないと。弱った人間をあまりいじめるのもよくないからな。 「はっ、払えませんよ!!」  それはそうだろ、そもそも38万ゴールドも持ち運べるわけがないって、一体、重さいくらになると思ってんの? そんなに持って戦闘なんか出来るわけがないでしょ。もしそれが出来たら銀行なんかいらないって話になってしまうでしょ。けれどもそれは今の俺には関係ない話なんで知らん顔をしておく。 「金が払えないんなら、売るわけにはいきませんね」  俺の言葉にがっくりうなだれる彼女。それはそうだ、この店で2番めに安い薬草が買えないんなら、他の商品なんか買えるわけがないって。一応言っておくけれども一番は毒消し草さ。毒消し草なんかいまさら買ってどうすんの、毒で死ぬやつなんかいるの? レベル30を越えているような奴らがさぁ。何でそんな誰も買わないようなものをここで売っているのかは俺にも分からないんだ。  それよりも、さあどうするんだ。買うのか、買わないのか、まあ金が無いんだろうから買わないんだろうな。なら借金か? 金を借りるのか? どうやって借金を返すんだ? 一体誰から金を借りるんだ? そうだろ、金の無いやつに金を貸した所で返ってくる見込みがないんだから、貸すやつなんていないよな。  なら身体でも売るのか? いやそれはまずいだろ。なんで俺はそんな悪徳商人みたいなことを言っているんだ? いや、ぼったくっているんだから悪徳商人みたいなものなんだけれども、やってはいけない、越えてはいけないラインというものがあるんだよ。それを越えないのが俺のポリシーみたいなものなんだ。  俺の頭の中で色々な考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えをして夢中になっていると、彼女がレジの隣に置いてあったアンパンを指差して言った。 「それいくらですか」 「それ俺の昼飯なんで」 「売り物じゃないんですか」 「そうですね。売りませんよ。僕の昼飯はね」  何でアンパンなんか欲しいの? ていうか、それってさっき俺が半分かじったやつでしょ? そんなの商品のわけがないじゃん。目が悪いの? それともお腹が空きすぎて倒れそうだから人の食べかけでもいいの? 何で俺さっきから心の中で色々ごちゃごちゃしゃべっているの? もしかした病気か? 俺、心の病気? それってやばくない?  俺が色々考えていると、そんな俺の心の中を知らない彼女が「それ売ってもらえます」ときた。どうしても買いたいんなら売ってやってもいいけれどもね、俺の食べかけでもよければね。 「3万ゴールドになります」  俺を度肝を抜かれたような――本当に抜かれたわけではないぞ、そんな表情をした、ギャグマンガの登場人物のような彼女の顔はちょっと笑えたので「3万1千ゴールドです」と言い直しておいた。何で値段が高くなっているのと思うだろうけれども、消費税を上乗せするのを忘れていたんだ。    そうだろ、国にはちゃんと税金を払わないと税務署がうるさいからな。それに値段が高くなった時の彼女の表情の変化を見たかったというのもあるんだ。さっきの顔がおもしろかったからね。さあどうするんだ彼女は?  彼女が薬草と俺のアンパンを引ったくって店から飛び出す。  あっ、このやろう。そうきたか、まあそうだよな、買えないんなら万引するしかないのかもしれないな。でもな、それを見逃してしまうわけにはいかないんだ、こっちも商売でやっている訳だからね。それにそんなことをすると俺がこの店のバイトをクビになってしまう。  俺は店のカウンターの脇に置いてあったロングソードを手に取り、彼女を追いかけて店を飛び出す。俺は忘れずに店に鍵をかける。それはそうだろ、用心っていうものが必要だ。留守中に他の客に万引されたらいけないからな、俺はそこまで間抜けじゃない。  というわけで彼女を追いかけ行こうとした俺は、ああそうだ、あのセリフを言わなきゃな。こういう時には言わなければならないセリフっていうものがあるんだ。道具屋のバイト研修で店長から言われていたあのセリフだよ。じゃあ言うぜ。 「ドロボー!!」  よし言ったぜ。じゃあ彼女を追いかけるとするか。  
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