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あたしの絶対的味方だったおばあちゃんは、いとも簡単に、あたしのことを忘れた。
それが、あたしの中ではしこりになって、くすぶる。
ひどい、あたし、こんなに辛いのに、最後は忘れるなんて、あっさり忘れるなんて、おばあちゃんにとって、あたしってその程度?
あたしは、忘れてないのに。ずっと、傍にいてくれると思ってたのに。
やるせなさは、苛立ちに変わって、ねえ、なんでって、いない人間に向かって何度も心の中で叫んで、
何も返事は返ってこなくて、
「おばあちゃんの、ばかっ…!!!」
あたしは、普通考えたら、そんなことするのは良くないって分かるのに、いきなり衝動的になって、鼈甲の櫛を、畳に叩きつけた。
「あっ!」
畳に叩きつけられた鼈甲の櫛は跳ね返って、宙を舞いながら、櫛の歯が、ポキンといくつか折れてしまった。
うそっ…!?
「えっ、ど、どうしようっ、なんで、鼈甲ってこんなに簡単に壊れるのっ!?」
壊れても、なお美しく輝く鼈甲。
割れたところが鋭くキラキラと光って、鼈甲のしっとりとした艶やかさではない輝きが壊れてしまったということを突き付ける。
やっ、どうしよう…!?
「そなたは、ものを大事に扱えとは習わなかったのか?」
「!?」
家の中から、普段聞き慣れない、若い男の声がした。
春風のような、爽やかな、すんだ声。
でも、得体が知れなさすぎて、今のあたしには、恐怖にしかならない。
「だっ、だれ!?」
あたしが鼈甲を思わず隠しながら叫ぶと、まるで、風から生まれたかのように、ふわりと、着物を着た青年が、あたしの前に降り立った。
えっ…!?
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