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…コンコン。
内鍵をかけてある扉からノックの音がした。
「ゆい、ちゃん?
起きてる?」
外から声をかけてきたのは、母さん。
その声色は怖々としている。
あたしの反応を窺っているような、そんな声。
「あの、いとこの千花ちゃんのおうちがきたけど、挨拶、しない?
あと、お通夜、どうする?
ゆいちゃんにも、きてほしいな。」
いとこの千花ちゃん。
は、あたしとは違う中学に通っている、タメの子。
…好きじゃない。
千花ちゃんも、その、家族も。
あたしは部屋の隅に座って、何も言い返さなかった。
「…そう。
ちょっとでもお話したくなったら、教えてね?」
母さんは、柔らかな声で言うと、パタパタと階段を降りていった。
亡くなったおばあちゃんはあたしの父さんの、母。
うちの父さんと、千花ちゃんの父さんが兄弟なんだ。
おばあちゃんにはこの二人以外子どもはいなかった。
あたしは四つ葉のクローバーのしおりを本に挟んで、ふっと、ため息をひとつ。
あたしの1日は、ほぼすべてこの部屋で完結する。
出るのは、トイレの時と、夜中にお風呂に入るときくらい。
ごはんは、母さんが心配してあたしの部屋まで運んでくるから、それを食べてる。
そのごはんだって、扉の前に置いてもらって、母さんがいなくなった隙に部屋にもって入って、またいないときを見計らって空になった食器を返すだけ。
母さんと父さんはあたしが不登校になった時、最初こそはなんとかして学校にいかせようとしてきたけど、今は、何も言わない。
きっともう、諦めたんだと思う。
あたしのこと。
あたしは、クローバーのしおりを本から取り出して、引き出しにし舞い込んだ。
押し花にしてあるクローバーは、年月が経って、葉は、鮮やかな緑ではなくなっていた。
端から朽ちていくその姿は、人間の気持ちと同じ。
人間も、次第に腐っていってる、と思う。
だって、6才のあたしには、戻れない。
体が、じゃなくて、気持ちが。
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