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生理現象って、やっかいだ。
いとこが来ててなるべく1階には降りたくないのに、尿意には勝てない。
ギリギリまで我慢したけど、これ以上は無理、と判断したあたしは、ゆっくりと、音を立てないように部屋の扉をあけて、ソロリソロリと、階段を降りた。
トイレは玄関のすぐ近くにあって、階段もそのすぐ近くにあるから、みんなにあたしを見られることはない、だろう。
そう思ってたのに、玄関からみんなの声が聞こえてきたときは、身がすくんだ。
「母さんに可愛がってもらったくせに、ゆいは通夜にもこないのか。
薄情な孫だな。」
あの声は、伯父さん。
伯父さんの声からは、軽蔑の色が見える。
「ねえ、いつまでゆいちゃんは不登校でいるの??
あんまり長くなると勉強も遅れちゃうし、高校にも進学できなくなるわよ。
大丈夫?そこらへん考えてる?」
あの声は、伯母さん。
その声からは、バカにしている様子が、ありありと分かる。
胸が、締め付けられる。
トイレで、身を縮めているしか、ないあたし。
「というか、どうして不登校になったの?
同級生に苛められたの?それとも勉強についていけなくなったの?
それとも単純に学校が面倒くさいの?」
伯母さんのなんの遠慮もない質問に、父さんが答えた。
「ゆいは、理由を教えてくれないんだ…
あんまりこっちが学校に行け行けいうのも、ゆいの負担になるだろうし、」
「そんなことはどうでもいい。」
伯父さんが、ピシャリと言い放った。
うちの父さんは、伯父さんの弟だから、あんまり強くは言い返せないみたい。
「今日はお通夜なんだぞ?
ゆいを部屋から引きずり出すことはできないのか?」
「やめてくださいっ、」
伯父さんの言葉に、母さんが慌てて言い返した。
「そんなことをしたら、ゆいちゃんはますます外に出たがらなくなりますからっ…」
「甘やかしすぎじゃないのか??」
伯父さんの、冷たい声。
あたしは、息を潜めて、トイレでうつ向いていた。
「ねー、あたし自分のいとこが不登校とか恥ずかしいんだけどぉ。
どうせ苛められたんでしょ?」
「こら、千花!
そんなこと言っちゃだめよっ!」
千花ちゃんの言葉に、伯母さんが緩く注意する。
嫌い、きらい。
「ねー、ママ、“ふとーこー”ってなあに??」
千花ちゃんのまだ小さい弟がこんな質問をすると、伯母さんが猫なで声で説明した。
「んー?
不登校っていうのはねー、学校に全然いかない人のことをいうのよー?
ともくんは、なっちゃだめよぉ?」
いとこの家族は、嫌いだ。
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