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鳥の鳴き声がして上を見ると、雲ひとつない青空が広がっている。カイは爽やかな気分になって、大きく伸びをした。
深呼吸をしてから気合いを入れ直し、しゃがんで薬草をとる。
穏やかな陽気のなか、次々と籠に薬草を入れる。
集中していたため、馬の足音が聞こえて顔を上げた時には、もうその姿が近くまで来ていた。
武人の集団が、馬に乗って走ってくる。定期的に来るムージヌス王国からの使者だろうが、今回は数が多かった。いつもは三人のため、不思議に思って首を捻る。よく見ると、武人にしては軽装な人もいる。
理由はすぐにわかった。
一番前を走る武人の服に、銀色の模様が描かれている。王国で銀は王族や一部の貴族しか身につけることを許されていない。王族、もしくは貴族ならば、従者が大勢いても不思議ではなかった。
カイは道の端に寄ると、頭を深く下げる。
集団はその勢いのまま走り去っていくかと思ったが、徐々に速度を落とした。
馬の足音と地面を蹴る振動が小さくなり、カイの前で先頭が止まる。
「カイ?」
心臓を掴まれた感触がした。五年ぶりのその声に、体が硬直する。
「お前、カイだろ?」
あの頃よりも、低く自信に溢れた声が、もう一度降ってくる。
恐る恐る視線を上げた先で、精悍な顔がこちらを見下ろしていた。
「ずっと会いたかった」
長い睫毛を伏せて笑う顔は、男前だった。魅力的な顔と鍛え抜かれた体は、見る者にまとわりつくような色気を放っている。
「オリヌス王子……」
久しぶりに口にした名前をきっかけに、五年前の記憶がよみがえる。
◇
オリヌスに出会ったのは、カイが十四歳の時だった。
カイの住む『医術の里』は、医術を提供する代わりに、武人の国であるムージヌス王国に守ってもらっている。オリヌスは王国の第一王子で、当時は十七歳の青年だった。
十七歳にしてカイの周りのどの男よりもたくましい体、鼻筋が通った端正な顔立ち、大人相手でも勝ってしまう武術の強さなど、何もかもが雲の上の存在だった。
近寄り難い存在だったが、里にいる子供で、オリヌスと一番歳が近いのがカイであったため、里に滞在する間、話し相手としてそばに控えることになってしまった。
「カイ、といったか? 俺はオリヌス。よろしく頼む」
「は、はい。光栄でございます」
「そんなに固くなるな。自然体でいろよ」
挨拶をした時に、オリヌスはそう言って笑った。緊張で胸が潰れそうだったカイは、気持ちが少し楽になったのを覚えている。
思えば、その時からオリヌスに惹かれていたのかもしれない。
オリヌスは時々話しかけてくれた。まだ十四歳だったカイに優しく声をかけてくれて、一日に数回は喋った。
連日の宴会で酔っ払う大人にはわからないように、苦手な食べ物をそっとカイの皿に置いて、悪戯っぽく笑うオリヌスを、身分は違えど兄のように慕う気持ちが日々強くなっていった。
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