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 オリヌスに手を引かれて渡り廊下に出る。夜の風が肌を滑っていった。  彼が滞在中に使っている屋敷は奥にある。普段から立ち入ることを許されている人は少なく、里で育ったカイも近づいたことのない場所だ。 「暗いから足元に気をつけろよ」 「はい」  ぼんやりと炎が照らす門をくぐる。  屋敷の中には明かりが灯されていて、里ではあまり目にする機会のない武器が、壁に立てかけてあった。  オリヌスは扉を開けていき、とある部屋に着いた。王子の私室に入ってしまってもいいものかとカイは躊躇する。  しかし、オリヌスは何も気にしていない様子で、カイを二人掛けの椅子に座らせた。 「怖がらせて悪かった……。俺のこと、嫌いになったか?」  隣に座ったオリヌスが身を寄せてきて、頬を撫でてくる。眉を少し下げている顔からは、先ほどの怖ろしさは微塵も感じなかった。 「嫌いになんて……少し怖かったですけど、オリヌス様を嫌いになんてなりません」 「良かった……」  安心したように微笑んで、カイの髪を優しく梳く。  使用人が入ってきて机に甘味を置いても、たくましい体が離れないので恥ずかしかった。 「いつもならああいうのも聞き流すんだが、カイのいるところで言われたのが、嫌だった」 「私のいるところ……?」  何で自分が関係あるのだろう、と小首を傾げるカイに、オリヌスは優しく目を細める。 「好きな奴の前で、違う奴と親密になれって言われたら嫌だろ?」 「……ありがとうございます」  何だかよくわからないけれど、オリヌスが自分を好きでいてくれてるのがわかって、嬉しかった。  にこにこするカイとは反対に、オリヌスは眉根を少し寄せる。 「わかってんのか? カイを俺のものにしたいっていう意味の『好き』だぜ?」 「えっと……?」 「つまり、カイに恋をしてるってことだ」 「え」  恋。あまりにも予想外な言葉で、カイは目をしばたたかせる。 「恋、ですか?」 「ああ。お前に恋愛感情を抱いている」 「でも、あの、私は男ですよ……?」 「そんなのわかってる。俺はカイが好きなんだ。愛しいと思っている」  ぼんっと音がしそうなほど一気に顔が真っ赤になった。えっ、あのっ、と慌てるカイの様子に、オリヌスが小さく笑う。 「照れてんのか。可愛いな」 「そ、そういう意味の『好き』を言われたのが初めてで……」 「そうか、初めてか」  オリヌスが嬉しそうに口角を上げた。ずっと優しい表情だと思っていたが、そこにカイに向ける愛情のようなものを見つけてしまって、さらに顔が熱くなる。 「娘を自分のために使おうとした男には、ああやって怒ったが、カイを手に入れるためなら、俺はあの男よりも酷いことを平気でする」  男前な顔は甘い微笑みを浮かべているのに、裏に隠している牙を思い出して、ごくりと唾を飲み込んだ。 「だから、大人しく俺の恋人になってほしい」 「恋人……」  恋人という言葉は知っていても、その関係をカイはまだ経験したことがない。
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