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 ふいに、宝石のような黄色い瞳が、優しい光を宿した。 「でも、カイは怖かっただろ?」  大きな手で頭を撫でられて、じわっと視界が滲んだ。我慢しようとしても、ぽろぽろと涙がこぼれてしまう。  低いとはいえ崖から落ちたこと、王子を危険に晒してしまったことなど、すべてが怖かった。 「怖かったよな。何かあったら俺が守るから、安心しろ」 「王子……っ」 「名前で呼んでくれよ」 「オリヌス様っ」 「よしよし、気の済むまで泣け」  たくましい体に抱きしめられて、背中を優しく叩かれる。  本当に兄のようで、失礼だとわかっていても、カイはぎゅっと抱きついて涙を流した。    ◇  未だ強い雨音が響く洞窟で、カイは後ろから抱きしめられて座っていた。  日焼けした健康的な肌が視界にちらつく。  筋肉のついた体は温かく、腰布一枚という格好でも寒くなかった。 「寒くないか?」 「はい、とても温かいです。……でも、本当は私がオリヌス様を温めなきゃいけないのに……」 「いいんだよ、俺はカイを抱いていれば充分温かい」  耳元で囁かれる。それがくすぐったくて、カイは少し笑って身じろぎをした。 「今ごろ、カイの親が心配しているな」 「いえ、私に親はいないのです。幼いころに、この里に捨てられて……」 「そうなのか……悪い」 「親はいませんが、里の人達は皆良くしてくれるから寂しくないです。なので、気にしないでください」  首を動かし、オリヌスを見上げて微笑む。そうすると、濡れた灰色の髪の間から、オリヌスがふっと目を細めた。 「強いな、カイは」 「そ、そんなことありません……。強いとは、オリヌス様のような方のことを言うのです。かなりの武術の腕前で、いつも冷静で、優しくて、格好良くて」  オリヌスの瞳がどんどん見開かれる。驚いた顔に、何か変なことを言っちゃったのかな、とカイは首を傾げる。 「そんなに褒められたのは初めてだ……。俺の父は、歴代の王の中でも特別に強いらしく、俺が何をしても皆、『あの王の息子だからそれくらいできて当然』と……」  最後のほうはぽつりと呟くようだった。何だかその顔が寂しそうで、カイは片手を彼の頬にそえる。 「私のような子供を気にかけてくださるのも、大人を負かしてしまう強さも、こんな状況でも冷静でいられるところも、凄いです。とても尊敬します」  オリヌスの眉に、ぎゅっと力が入った。泣きそうな顔を一瞬して、それを隠すようにカイの肩に顔をうずめる。 「いきなりそんな褒めんなよ……」 「す、すみません。知ったようなことを言ってしまいました」 「怒ってんじゃねえ、照れてんだ」  オリヌスの可愛らしい一面に、胸にじんわりと熱が広がる。だが、オリヌスが声を漏らすと体に熱い息が当たって、今さら、裸に近い格好で抱きしめられていることを強く実感した。
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