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「一緒に寝ようって言ったのは俺だが、本当にいいのか? 帰りたかったら遠慮なく言ってくれ」
夜が深まり、そろそろ寝るか、とオリヌスが言った後、なぜか心配げな顔で訊ねてきた。
「私はオリヌス様のおそばにいられるのは嬉しいですが……やはりご迷惑でしょうか」
「いや、俺もカイが泊まってくれるのは嬉しい。でも、俺と一緒に寝るの、怖くねえのか?」
「怖い……?」
何が怖いんだろう? と小首を傾げるカイは、食事の時のことを言っているのか、と勘違いして、首を振った。
「あの時は少し怖かったですが、オリヌス様がお優しいのは知っているので、もう怖くないです」
「あー、怒ったことじゃなくてだな……。なんつーか、俺のすぐ横で、安心して眠れるか?」
カイは驚きを顔に浮かべ、手を振った。
「オリヌス様のお隣なんて、恐れ多いです。私は床で寝ますので」
「床? まさか、床で寝る気だったのかよ?」
呆れたようなオリヌスに、カイは当然というようにうなずく。
「そんなこと俺が許さねえ。いいか、カイ。泊まっていくなら、寝具で寝ろ。同じ寝具が嫌なら、俺が椅子か床で寝る」
「そんな、私は」
それ以上言葉を紡ぐのを止めるかのように、オリヌスが人差し指を唇に当ててきた。
カイの動きがぴたりと止まる。
「わかってくれるだろ?」
幼子をあやすような、優しい言い方だった。甘い菓子のような声に、急に耳が熱を持ち、思わず、こくんと首を動かす。
「いい子だな。ちょっと待ってろ、寝間着を用意する」
彼の指が離れる。唇に残った温もりが、じわじわと消えていく。それを惜しむように、彼が触れていたところにそっと触れた。
「俺ので悪いが、これでいいか?」
オリヌスが持ってきたのは、目にしたことがないほど上等な寝間着だった。カイが一生かかっても買えないほどの服だ。
「オリヌス様のものを使うなど……叱られてしまいます」
「カイは俺の特別なんだから、何使ったって誰にも文句は言われねえよ。兄と弟が同じ服を着るなんて、よくあることだろ? 洗ってあるから安心しろ」
服を渡される。手触りが良く、綺麗な刺繍が施されている。
どうしよう、と困り果てるカイの前で、オリヌスが着替えはじめた。
彼の上半身が明かりに照らされる。日焼けした肌は、小さな傷跡でいっぱいだった。割れた腹筋、引き締まった体は、何もかもが自分と違う。芸術というものをあまり目にしたことがないが、これこそがそうなのではないか、と思った。
「惚れたか?」
精悍な顔が、悪戯な笑みを浮かべる。力強い瞳は、獲物を前にした獣のようだった。
どくんと心臓が震えた。かっと体が熱くなり、鼓動が速くなる。
胸を小突かれたような衝撃に襲われていた。オリヌスのあまりの格好良さに、体がよろめく。そんな感覚がした。
はじめての感情や感覚に戸惑い、俯くカイの頭に、手が置かれる。
「冗談だ。あの衝立の後ろで着替えてこいよ」
「は、はい」
軽く撫でた手が離れる。
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