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勝負はパズルゲーム
幼い頃、俺はファミコンゲームにどハマりしていた。圧倒的難易度、不条理なゲームシステムは、俺の勝負心をくすぐった。そんな時父に殴られた。成績が悪いうえにゲームなんて得意になってどうする、そう言われた。
それでも俺はゲームを続けた。青春の全てを捧げた。気付いたらゲームしか俺には残ってなかった。
そして。
「俺にプレッシャーだって、そんなもん有るわけないだろ。伊達にこの格闘ゲームのチャンピオンを五年もやってないんだぞ」
そう俺は密着テレビ番組の取材者に答えた。あれから時は流れて、何度目かの決勝戦。数多のゲームでチャンピオンになった俺は自信満々だった。格ゲー、パズル、FPS、アクション、数々の記録を塗り替える俺を人はこう呼ぶ『ベストバウトメーカー』と。
「俺を越えられるのは俺だけだ」
取材者が感心の息を漏らす。
その時、控室をノックする音があった。
「どうやら、記録を塗りかえないといけなくなってしまったようだ。六連覇目もう俺には視えている……」
カメラがズドーン的な感じで俺を捉えた。
『どうしたチャンピオン。ここで挑戦者の猛追。ああ〜チャンピオン……』
布団でくるまった俺の体が目覚める。四畳半の部屋はゴミで散乱していた。カップラーメンの山が俺の食生活を物語る。
「嘘だろ。どうしてこうなった」
俺は決勝のトーナメントのことを思い出す。
「あの時だ、コンボ選択を一瞬迷って、焦ってミスったら大逆転されたんだ」
プレッシャーがものすごかった。勝てる試合だった。コンボさえ繋げれば体力ゼロまで持っていけた。なのに、これまでの地位やら名声が浮かんだ時、体が動かなくなってしまった。あの日から俺は調子を崩して、eスポーツ界の落ちこぼれになってしまった。
辛い。生きていくのがしんどい。
俺はチームの戒告通知を丸めてゴミ箱に投げ入れる。もはや俺を支援するスポンサーなどありはしない。アマチュアにすら勝てなくなった俺など。
気分転換にテレビでもつけよう。
『その時前チャンピオンの志島学人選手は我々取材班に言い残しました。どうやら、記録を塗りかえないといけなくなってしまったようだ。六連覇目もう俺には視えている……
そして決選の地で無様に散った。我々の取材は一体何だったのだろうか。ベストバウトメイカーとは一体何だったのか、今も謎のままである』
「うわわわあっわあああああああああああああああああああああああああ」
今すぐ死のう‼
俺は急いで縄を吊った。
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