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気づくと足元は雲の上だった。
またやって来てしまったのか。
ここは天界の裁判所であり、魂の行く末を決める場所。そして、俺が地獄へと送り出された入り口。
目の前には鬼の大頭の閻魔大王がいた。着物姿で、人間というちびっこい俺を睨めつける。
そして口元を開くと。
「学人君、チョリース⭐︎」
「ちょ、ちょりーす」
思わず俺も変な言葉で返してしまった。
「それで地獄どうだった? マジパネェでしょ‼︎ 俺はあんなところじゃ生きていけないわ。だっであれ俺が若かりし頃の元カノばっかりでさ。用事であっち行く時マジでダリィよ」
閻魔大王は無造作ヘアにセットした髪を撫でていた。
「…………」
あいつらが結婚行き遅れたのはお前のせいか。というかこんな奴に道徳はなにかと説教されて地獄へと送り出されたのか。なんか情けなくなってくる。
「っで、とりま学人君呼び寄せたのは異世界転生してちょちょいとゲームして世界を救ってくんないかな」
「断る」
即座に俺は返事をする。だいたいゲームなんかして世界が救われるのか? どんな世界だよ。
「もう、俺はゲームをやりたいとも生きたいとも思わないんだ」
「わかんねぇけど、そんな意固地にならなくていいっしょ。悪くねぇと思うよ、俺は」
「いいや、それでも俺には自信がないんだ
。情けないことに、ヘヘッ笑っちゃうだろ。俺たがだかゲームで自殺したんだぜ」
「ウケる〜⭐︎」
閻魔大王が俺を指差す。
「笑うんじゃねえこのボケが‼︎ こっちは真剣なんだぞ」
「笑えって言ったのそっちだし意味わかんね」
「とにかく俺はもう」
「あー先輩じゃないですか。久しぶりッス」
俺の背中に抱きつく一人の人間がいた。裁判最中に乱入してくる奴なんてどこのどいつだと思ったら、この声に思い当たる節があった。
「この間の世界大会決勝以来ですね。あれいい勝負でしたよ。俺が勝ちましたけど」
世田谷裕太ーー俺を倒して一五歳という史上最年少でプロになったゲーマー。あどけなさがまだ残る顔がこんなにも憎らしいとは。
「なんでお前がこんなところに」
「それが交通事故にあっちゃって、ここきたら転生させてくれるって言われたんスよ」
俺が閻魔大王をみると、爪の長さを確認しながら
「そそ、なんかあ、要望が2つから依頼来てて、ちょっと2人に頼もうかと」
よりによってこいつもか。俺は行かないが。
「閻魔大王様、先輩には無理ッスよ。俺に負けてから先輩って公式では1回も勝ててないんスよ。だって先輩って」
「言うな‼︎ 閻魔が知らないはずないだろ」
そこでようやく閻魔大王が俺に視線を戻す。
「まあ、現状がチョーヤバイってのは知ってっけど、閻魔大王としてはさ、やり直すチャンス? あげたいじゃん」
「無理ですよ。そりゃあ過去は凄いッスよ。僕も憧れましたよ。2000年のラスベガス大会奇跡のジャストガード14連発逆転劇とか、マリオカートのベストレコードは未だ破られていないし、でもそれは過去の話なんスもん。今は僕、僕の時代なんスよ」
俺は握り拳を作る。
「こんなズタボロの老犬の出る幕なんてもうないっスよ。あれっなんか先輩怒ってます? でも本当のことだからなあ。先輩は引退してていいですよ」
俺はこんな奴に負けてしまったのか。
「とりま、世田谷君は先に送っとく感じで、あの門をくぐって行ってきて」
「了解ッス。あっ先輩、くれぐれも僕の後を追わないで下さいッスね。醜態を晒すだけなんで」
そう言って世田谷は門の方へ転生しに行った。残されたのは閻魔大王と俺だけなった。
「んで、どうする学人君?」
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