二品目 # 月見うどん

1/1
前へ
/3ページ
次へ

二品目 # 月見うどん

私は母に似て生理痛が重い人だった。生理が始まる前日は少しのことでイライラするし、始まって2、3日はお腹が痛くて動けなくなる。そして異常なまでの眠気に襲われる。 一番酷い日は、頭痛、腹痛、腰痛、倦怠感、眠気、お腹は緩くなるし、熱は出るしのフルコース。 市販の薬はどれも効かなくなって、仕事に影響するからと産婦人科で薬をもらうことになった。 それでも身体のだるさはあるし、頭がボーッとしてしまう。 お腹にカイロを当てても足先から冷えていくのがわかって、暑いような寒いような感覚に襲われる。 前よりはマシになっても、どうしようもなくお腹が痛くて丸くなることもたまにある。そんな時は心も寂しくて、誰かに寄りかかっていたいような、そんな気持ちになる。 そんな時、一緒に住んでいた祖母がよくうどんを作ってくれた。 一人鍋用の小さな土鍋で、コンロを離れてもしばらくグツグツと音を立てる。白い湯気がメガネを曇らせて、顔をしっとりと濡らす。 ふーふーと息を吹きかけ、口へと運ぶ。中まで熱くて、行儀が悪くも、思わずハフハフと口を開く。少し伸びたくらいの麺は、噛みやすくて食べやすい。 少しずつ胃に温かいものが溜まっていくのがわかる。食べ進めると、下の方から、中が半熟になった卵が顔を覗かせた。それを破るのはいつも悪いことのように思ってしまう。 だけど、それを割った後、トロッと出汁の中に広がり、まろやかに味が変わるのはどうしても外せない。あれは一種の魔法だと思う。 最後の一滴まで美味しくて、食べ終わる頃には汗をかくほど全身が温かくなっている。 その頃には寂しさもなくなっていて、心の中まで満たされている。「あぁ、幸せだなぁ」なんて考えてしまうほどに。 きっと父に言えば鼻で笑われるだろう。「やっすい幸せだな」という言葉が聞こえる気がする。 材料費では60円くらい。そこにガス代と手間賃。でも、200円払っても足りないと思ってしまうほど幸せになれるのだ。満たされるのだ。 私は写真に目をやった。そんな幸せをくれる大好きだった祖母も、今では写真の中で笑っている。 いつだったか、祖母は私に言った。 「幸せはね、そこらへんにたくさん転がってるの。でもね、拾って損はないのよ。幸せは分けてあげられるから。だから、たくさん拾っておかなきゃいけないの」 私がコケて怪我をした時も「良かったね、もっと大きな怪我をしなくて」って。 毎朝起きたら「良かったわ、今日も朝が来て」って。 私が初めて作った不恰好なオムライスを食べた時も「こんな素敵なもの私が食べていいの?」って。 そんな祖母が大好きで……うん。大好きだったからこそ、失いたくなった。私の大切で、大好きで、目標で、憧れだったから。 …そんな私は今、弁当屋を営んでいる。祖母が残してくれたレシピで、私の身につけた知識で、少しでも多くの人に幸せを分けるために。 「幸せ一つ、いかがですか?」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加