黄昏の戦場

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隣り合う二つの国があった。片方はライゼン王国、もう片方はエルフタ共和国。隣り合うこの二つの国はあるきっかけから戦争に突入した。もう、かれこれ九年にも及ぶ戦争が続いていた。兵力が足りなくなった両国は、力のある者たちを集め傭兵として雇う事を始めた。それを聞いた隣国の猛者達が二つの国に別れ、激化する戦争に拍車をかけていた。 ライゼン王国の国境付近の街ガゼリアの近くでも戦闘は続いていた。 オレンジに染まり始めた空の下で、大剣を振るう者、槍で敵をいなす者、銃を構えて後方から援護する者、そんな者達が無数に散らばり戦いを繰り広げていた。 数名の者達が共和国の新兵器、鉄の猪こと戦車をどう攻略すべきかと作戦を立てていた。 まず初めに大剣使いが砲身に体験や鈍器を叩きつけて曲げると、キューボラから顔を出した戦車内の司令官が遠距離からの狙撃で頭を撃たれその場でぐたりと倒れ伏した。 止まった戦車によじ登って行くと、司令官の死体を地面に放り投げ、仲に居た他の兵士たちを引っ張り出す。外に放り出されガタガタと震える兵士達を見て、 「おいおい、戦車機能停止させたぞ」 と呆れた様に呟くのはネイズ・ふりげりー。ミデル族の男性だ。 ミデル族の特徴として平たく能面の様な顔に小さな目と口、鼻は無い。表情を変えても同族でなければ解らない。ミデル族の男はそれに加えて長身でがっしりとした体格の者が多い。フリゲリーの場合は左腕を失ており義手になっている。殺傷力の高そうな爪を付けたSF空想小説の中に出てくるの様なロボットの様だと、見た者は言うのだった。そして見た目は妙な周囲に威圧感を与える。黒い衣装を好んで身に着け、返り血を浴びても気にならないからだと本人は語っていた。 「へぇーやるねぇー」 そう呟くのはカイゼ・ロクホート。 ロクホートは血の様な赤黒い髪をしてタレ目で緑の瞳には楕円の眼鏡を掛けている人間の男性だ。身長は人間の男性の平均よりも低く、茶色いダボ付いたサイズの大きい服を身に纏っていた。 そうしてフリゲリーとロクホートは停止した戦車へと近づいて行くと、放り出されていた兵士達を縄で縛っていくロクホート。連なる様に腕を縛り上げると、立ち上がらせてガゼリアの街の軍本部へと連れて行く。 逃げない様にとフリゲリーが先頭に、最後尾にロクホートが銃を構えて脅しながら連れて行くのだった。 この戦場では日が昇ると戦いを始め、陽が沈むと軍の兵士以外の傭兵達はガゼリアの街へと戻っていくのだった。 ガゼリアの街に着くと、軍本部に捕まえた敵の兵士たちを他の傭兵数名と共に引き渡した。 その後は、皆登録しているギルド本部へと向かって行った。そこで今日一日の働き分の賃金である金貨銀貨を受け取ると、気に入りの酒場へと向かって行く。 ロクホートとフリゲリーも登録しているアルハドギルド本部へ向かい金貨数枚を受け取ると、気に入りの酒場『ルーナ』に向かい、ロクホートは何時ものA定食とビールを頼む。フリゲリーはミデル族用のパック詰め食事と白ワインを頼むのだった。 「ぷはー!堪らないね!」 「そうなのか?」 「そうなんだよ、人間にとってはね」 そうロクホートは言いながら分厚いステーキをナイフで切ってフォークに刺して口へと運ぶ。それに堪らないという表情を浮かべるロクホート。 「よくそんなに噛むのが必要な食べ物を食べるな」 「この噛み応えが堪らないんだよ、人間にとっては」 「俺たちミデル族は食べ物に対して興味が薄いからな」 そう言いながらパック詰めされた栄養食を小さな口で摂っている。 ミデル族は歯が無く、噛む事が出来ない為どろりとした栄養食を主に摂り、味に対するこだわりのある者は少ない。 「そういえば聞いていなかったがお前さん何歳だ?」 「人間年齢で三十一だよ、おじさんに入り始める年齢。そっちは?」 「二十一だ」 「ミデル族的に見てどういう感じ?」 「良くも悪くもおじさんだな」 「そっか」 そう言いながらもう一口切ったステーキを頬張るロクホート。 「まぁ、良いんじゃない?おじさんで。僕もこれからおじさんになるんだし」 「仲間だな」 「そうだねぇ~」 そうしてある程度飲み食いすると、その店を後にした。 二人は店を出ると、宿屋へと向かう。何時も使わせ貰っている宿へと戻ると、入り口の受付で、 「フリゲリーとロクホートが返って来たよ」 とロクホートが受付の係に言うと、追加料金を払うと部屋の鍵を渡された。この四階建ての宿の三階にある二人部屋を二人は一緒に使ってる。部屋に入ってすぐの所にシャワーやトイレに洗面等があり、奥に左右対称で壁側にベッドヘッドがある二人部屋だった。左側をフリゲリーが、右側をロクホートが使っている。 フリゲリーのスペースには義手を手入れする道具や大剣を手入れする道具や衣服が鞄に入れられて置いておかれていた。ベッドは小さいのか台を置いてサイズを補っていた。 ロクホートのスペースには拳銃を手入れする道具が本が数冊に衣服の入っている大きめの鞄が置かれていた。他におやつとして菓子の袋が少々棚に置かれていた。 それぞれ自分のスペースへと向かうと、フリゲリーは背負っていた大剣を下すと壁に立てかけた。ロクホートも持っている拳銃を取り出すと、手入れをし始めた。 「先にジャワ―使うぞ」 「どうぞー」 そうフリゲリーが言うと、ロクホートはそう返した。 シャワー室に入るとものの五分も経たない内に出て来てロクホートに驚いた。 「もう終わり?相変わらず早いねー」 「いいだろう……」 そうタオルで体を拭きながら上衣を着るとベッドに腰掛けて義手の手入れをし始めた。 一通り銃の手入れが終わったロクホートはシャワーへと向かう。フリゲリーとは違い三十分程のんびりシャワーを使うと、衣服を着て赤毛の髪をタオルでガシガシと拭きながらベッドへとダイブした。そして起き上がると本を取り出すとパラパラと捲って読み始めるのだった。 そうしてそれぞれ思い思いの時間を過ごすと、お互い「そろそろ寝るか」と言ってお互い眠りについた。 そもそも相棒にならないかと誘ったのはフリゲリーの方からだった。 この戦場に来たのはフリゲリーの方が先だ。他の傭兵達とはそれなりに上手くやっていっていたが、如何せん自らがミデル族である事から少々避けられているのを実感していた。ミデル族が珍しい事もあるが、他の種族と違い感情が解りにくい点が大きいとフリゲリー自身そう思っていた。勿論戦闘では種族関係なく共闘するのだがその後だ、共に今日の武勲を祝う間柄にある者が居ないのが、少々ではあるが寂しさを感じていた。 そんな時、西の戦場から流れて来たロクホートは、来て早々恐ろしい程の戦闘力を発揮した。一人で敵軍の一個中隊に当たる人数を軽々と屠り、それでいて怪我のひとかけらも無かったからだ。 その功績から声を掛けるものが多く、様々なパーティや傭兵ギルドも勧誘に出たが、 「大人数で群れるのは苦手でね」 と言ってこの街の大手ギルドに所属している者や仲間の多い傭兵達を一斉に敵に回した。 フリゲリーが出会ったのは弱小ギルドのアルハドギルドに所属証明を書いている時だった。フリゲリー自身興味があったので軽く話しかけてみた。 「よお、おまえさん凄腕らしいが、このギルドで良いのか?」 フリゲリー自身はミデル族であることから大きいギルドに所属することが出来ず、今のアルハドギルドに所属せざるを得なかった。 「えーと、何族だっけ?」 「ミデル族だ、ネイズ・フリゲリーという」 「そうだったそうだったミデル族ね。僕はカイゼ・ロクホート、ここのギルドのヒトかな?宜しく」 そう言って手を出してくるロクホートに挨拶代わりの握手をすると、 「さっきも言ったがお前さんこんな弱小ギルドで良いのか?お前さんならどこでも優遇してくれるだろうに」 「ああ、そういうのには興味が無くってさ、面白いヒトと話がしたいからここに来たんだけど、他に違う人種は居るかい?」 そう軽く笑みを浮かべながら言うロクホートに、 「俺の他にアデリー族やエルバド族やらが居るぞ」 「そうなのか、それは嬉しいね」 「なんだ?他種族と話したいのか?変わった奴だな」 「そうなんだよ、変わった奴なんだよ」 そう微笑むロクホートに何か感じ入ったのかフリゲリーは興味をそそられた。 「お前さん、宿は決まってるのか?」 「いやぁ~来たばっかで決まってないんだよ」 「お前さん大手ギルドの誘いを断っただろう?圧力掛けられて恐らくお前さん泊る所多分無いぞ」 「だろうねぇ~」 それにも笑顔で答えるロクホートに、どうしたものかと考えた末、フリゲリーは思い切った決断をした。 「………お前さん、俺と一緒の部屋はどうだ?」 「……え?」 言った後に少々後悔しながら、フリゲリーは続ける。 「俺の部屋は二人部屋でな、そこしか空いて無かったから使っているんだが、正直部屋代が高くて困っている。折半で構わないなら、その…どうだ?」 「良いのかい?素性のよく解らない相手を一緒の部屋に連れて入って」 「そう言ってくるなら、大丈夫だと思うが?」 フリゲリーはニヤリと笑ってみせるが、ミデル族は表情が解りにくいので笑っているのかはロクホートには解らなかった。 「それじゃお言葉に甘えていいかな?ついでに背中の大剣も気になるし、宿で色々話を聞かせてよ」 「俺のつまらない話で良いなら構わないが?」 「つまらないの前提なんだ」 それにハハハと笑うロクホートに、フリゲリーは何ともいえない表情をする。ロクホートからはそんな風には見えなかったが。 そうしてフリゲリーの使っている『カルスの宿』へとやって来ると、受付の者は良い顔をしなかったが、フリゲリーの連れという事で仕方がないという顔をして鍵を渡してきた。その鍵を受け取り使っている部屋へと向かう。 三階にあるその部屋は左右対称でベッドヘッドが壁側に向いている二人部屋だった。左側のベッドは使用跡があり荷物が置かれていたが、もう片方の右側のベッドは使われた痕跡はなく、綺麗な状態のままだった。 「そっちを使ってくれ」 「悪いね」 そう言うとロクホートはボスンとベッドに寝そべった。 「あー何日ぶりのベッドだろうー」 「シャワーもある、使うといい」 「有難く使わせて貰うよ」 「ああ、そうするといい」 そう言って、義手の手入れをするフリゲリーを横目に、ロクホートはシャワー室へと向かうのだった。 その日から二人はお互い一緒に行動するようになった。近接戦闘のフリゲリーと後方戦闘のロクホートとでは相性が良かったのもあり、いつの間にか二人は周りから相棒同士と呼ばれるようになった。 本人たちもそれに不服は無かったので、言われるがままに行動するようになった。 朝日が昇り始める頃、二人は起きた。傭兵の朝は早い。 日の出と共に戦場へ向かい、陽が沈むと街へと帰って来る。毎日がその繰り返しだ。 フリゲリーとロクホートは日の出と共に起き、洗面を済ませると部屋に鍵を閉めて、宿の食堂へと行く。 食堂で出される人間用の食事を貰うロクホートと、ミデル族用の栄養パックを渡された。 ロクホートがコーヒーを飲み焼き立てのパンにバターを塗って食べているその前で、栄養食のパックを飲むフリゲリー。 簡単に食事を済ませると、一度部屋へ戻った。 装備の確認をすると、部屋を出て鍵を掛け、受付へそれを預けると宿の外に出た。 今日は他の街からの移動用トラックが来ている日であるらしく、他の街からやって来た傭兵達なのどが停車場にたむろしていた。見慣れぬ物たちに他の傭兵達は興味をそそられている様だった。 フリゲリー達も気には少々興味をそそれらていた、傭兵に対しての商売もするものも居る為その顔を覚えておくのだ。 そしてガゼリアの街から少し離れた七〇八前線へと、多くの傭兵達が進んで行く。 戦場に着くとロクホートが今日は東に行きたい気分だと言うのでそうする事にした。ロクホートの勘というのはよく当たり、敵の多く来る所を選ぶことが出来るらしい。羨ましい能力だがフリゲリーには全く出来ず、凄いものだと思いながらロクホートの後を付いて行くフリゲリー。 なぜこんなに当たるのか調べてしまいたいが、具体的にどう調べるのか解らないフリゲリー。これ以上の考えても意味が無いと思い、そういう性分なのだという事にしたのだった。 そうして戦場に着くと、他の傭兵達と話をしていると、敵部隊が小さな塊で押し寄せて来た。それぞれ斧や剣を振りかざし襲って来る人間達だった。おそらく敵軍人達だろう。 ロクホートは下がってひょいひょいと瓦礫の山に登ると、背中の腰にあるホルスターから大口径の二丁拳銃を抜き、相手の脳天を狙って数発撃つ。けれど分厚い金属製のヘルメットをしている所為かロクホートの弾丸ははじけ飛んでしまう。 飛び道具が効かないとなればフリゲリー達近接戦闘の傭兵達に頼むしかない。迫りくる敵部隊を待ち構え気合を入れる為に誰かが叫び声をあげた、それに同調するように傭兵達は高揚していく。 そしてぶつかり合った。 敵部隊の剣士や斧使い達を中心にした編成には一点突破しか考えていないようだ。 だが傭兵達もも負けてはいない、切り掛かられた者には切り返し、大剣を鈍器の様に使い相手を滅多打ちにし、異種族の者達は人間には成し得ない腕力を持っして敵部隊をぶちのめしていく。 フリゲリー達がもみくちゃになりながら戦闘する中で、ロクホートは冷静に戦場の状況を見て、ヘルメットが脱げた敵部隊員の頭に、そうでない者には肩や足等に銃弾を撃ち込んでいく。 最後まで立っていた兵士の武器を弾き飛ばすと、その場にくずおれた。フリゲリー達の傭兵はその兵士を担ぎ上げると、戦利品として軍に引き渡すことにしたようだ。 お互い満身創痍の状態で戦闘を続けるのは良くはないので兵士引き渡しと共に、街へと戻る者も少なくはなかった。 ただフリゲリーはたいした怪我もしていなかったので引き続き戦場で戦いを続ける様だった。 瓦礫の上から降りてきたロクホートは残弾の確認をしながら、 「まだやる気なら、中央に戻った方がいい」 「何時ものか?」 「そう何時もの傭兵達の総攻撃。時間的にはそろそろだよ」 「なら、動かないとな」 とお互い了承して戦場の中央付近へ向かって歩きだした。 到着早々、敵の傭兵部隊が押し寄せてきた。 中央付近に集まっていた傭兵達と共にそれに備え武器を構える傭兵達。 ロクホートは先程と同じように瓦礫の上に上ると全体を見据えながら端の方に居る敵傭兵に向かって発砲する。脳天を撃ち抜かれてあっけなく倒れていく敵傭兵を無感情に何人も何人も屠っていく。 フリゲリーは大斧を持った敵傭兵を相手にしていた。族の者で怪力で知られている。 相手にとって不足はないとばかりにフリゲリーは大剣を振るい相手の斧とぶつかり合う。ガギンと金属音を何度も上げ、フリゲリーは一歩も引かない。焦りだした相手がその振るうスピードを上げるが、これにも揺るがず相手をし続ける。そしてフリゲリーは一歩踏み込んで大きな一撃で相手に切りかかると、相手は脳天をかち割られて血を吹き出しながら倒れた。 それに仲間の傭兵が喜びの声を上げると、フリゲリーはまた別の相手と大剣をぶつかり合わせるのだった。 そうしている内に日も陰り、夕闇が始まり始めた頃にロクホートが一発空砲を撃つ。 それが合図に鳴ったのか、最後の止めを刺す者や戦場を離れる者、等それぞれ行動を取り始め、フリゲリーもぶつかり合った場所からいくらか引いた場所に歩みを進めた。 「おつかれ」 「ああ、おつかれ」 そう言い合って、そうして夕日の沈む時間になると傭兵達は街へと引き上げていく。フリゲリーとロクホートも同じようにガゼリアの街へと戻っていくのだった。 今日はどうやら何便もトラックが来るらしく、この街へとやって来る人々を乗せたトラックがやって来た。 トラックが所定の位置に停車すると、中から傭兵や傭兵相手に商売する者、人種は様々で、まずはギルド登録へと向かって行くものが殆どだった。 フリゲリーとロクホートもそれを横目に見ながら通り過ぎようとした瞬間だった、 「あああああああーーーーー!!」 とフリゲリーを指さしながら近付いて来る小人族こと、エルデバ族の男が小走りに近付いて来る。 「………ん?」 「………はい?」 それにフリゲリーとロクホートはそんな小人族を見降ろしながら様子を伺う。
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