first impact

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 大阪市外とはいえ、敷地面積だけならそこそこ自慢できると思っていた私の大学をあざ笑う光景が赤門の中にはあった。東京都23区内にしてここまでの敷地と自然を両立させたキャンパスがあること自体が既に衝撃だ。  大学正門から続く並木道は通称、銀杏(いちょう)並木と呼ばれているらしい。大阪の御堂筋も銀杏が代名詞のひとつではあるし、実際秋になると交通量に比例して路上に転がったぎんなんが次々に踏みつぶされて、道行く人々はこぞってしかめっ面になる。最近は銀杏の木も徐々にオスの木に植え替えているから昔みたいな悪臭は減っているようだけど、あれを一度でも経験すると負の印象がどうしても拭えない。  茶碗蒸しを見る度に考えてしまう。どうしてこの器の中のぎんなんは無臭で栗のように美味しいんだろうと。  景観そのものが違うとはいえ、銀杏並木は御堂筋とはひと味もふた味も違うように思えた。黄金に彩られた木々の間を歩く中で、時折顔にかかる緩やかな風は悠久を感じさせる。以前に来たときは行き交う学生や観光客で賑わっていて、そんなことを享受する考えすらなかった。なおのこと特別な一瞬という感覚を得た気がする。  「おい、あそこにいるの、変人じゃね」  「マジ?でも今日ってあの会館、学会っしょ?あいつ畑違いだよ」  「何においても変人レベルらしいからな。知能情報系も十八番(おはこ)ってことっしょ」  たとえ変人がいようと、この銀杏並木の穏やかな空気はなにものにも代えがたい。大学院生になってからは以前にも増して外を出歩く時間は減っていた。四季のありがたさへ私は心から感謝する。  日本の最高峰なんだ。変人のひとりやふたりはいるだろう。そう思っていた私の横をパンツ一丁で丸眼鏡をかけた男性が疾走して通り過ぎていく。真顔のままナンバ走りで去っていった変態のくせに異常なほど足が速い。  「待て!止まらんか!」  「くそ、奇人のくせに手こずらせやがって」  次いで私の両サイドを追っ手らしい人間が通り抜けていった。でも大丈夫。たとえ奇人がいようとも、銀杏並木の穏やかな空気はなにものにも代えがたいのだから。日本の最高峰だし、変人もいるんだ。奇人のひとりやふたりぐらい、むしろいるのが自然とも言える。  「待て!このストーカー野郎!」  「ただのフリーターのくせに毎日毎日学生ヅラしやがって!」  西日本最強の大学は変態集団で名高いけど、ここも上級者過ぎる連中の集まりかもしれない。ナンバ走りの後ろ姿に私は思う。    あいつはフリーターやからノーカンやな、と。
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