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パーティションボードに貼ったA0判のポスター前で、私はぼうっと立っていた。出だしの客入りは悪くはなかったけど、会場の空気が完全に落ち着いた現在は閑古鳥が鳴いているという表現がまさにぴったりだ。
他の発表者が訪れてきた研究者に内容を説明したり質疑応答をする中で、行き交う人は遠目から私のポスターをちらりと見てはくれるが、寄ることはない。
テーマが悪いのか、発表の見せ方が悪いのか、場所が悪いだけなのか。
「夢があるね、君。未来のノーベル文学賞の生みの親ってわけだ」
片手で数えるほどながらも見てくれた人々は、しかし全員がその内容に一笑して去って行った。英語で笑われるとなぜだか一層やるせなくなる。
何が悪かったか?今日まで突き詰めようとした研究すべてがなのかもしれない。そんな考えが頭に浮かんで虚しさが生まれようとしたとき、唐突に耳元から日本語が聞こえてきた。
「ニューラルネットワークによる文章解析と、情動制御による最適化文章生成モデル。ふうん。これはなかなか、イロモノの匂いだねえ」
白衣のポケットに手を突っ込んだまま、茶髪の人間が首を前に出して私のポスターをしげしげと眺めていた。見た目は私と同年代か、いや、よく見ると二十歳にすら見えない。
「ねえ、これってさ、具体的に何ができるの」
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