Now Loading

2/7
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
 大学の正門を抜け、駅前まで歩くとモールや飲食店がそこかしろにあって、その度に時代の変遷を感じる。  私が入学した頃は駅前なんてロータリーやコンビニ程度しかなかった。開発が進み、モールのテナントとしてファーストフードの店舗が続々と入るようになり、大学院生に上がった時にはただの歩道でしかなかった通りは探さなくても飲食店が並ぶほどになった。  南海電車のエスカレータ昇り口まで近づいた私は、(きびす)を返して通り過ぎたロータリーを右回りに進んで地下鉄の入口へ入っていった。下を見ることに恐怖を覚えるほどエスカレータは長く、意識しなくても右手は勝手に手すりをぎゅっと握りしめている。  エスカレータを降りてそこそこの距離を歩いた先に大阪メトロの駅改札がある。PiTaPaを改札のカードリーダに当てて通り抜け、地下鉄のホームまで降りていく途中で不意にあいつの言葉が頭をよぎった。  「ぴたぱ?なんだい、その頭の悪そうなおもちゃ」  「カードや!定期とかお金チャージするやつ、あるやんか」  「ああー……パスモみたいなものってことかな。いや、でも、センスないね」  なんでか私のネーミングセンスがないような展開になったことは今でも覚えているし、絶対に忘れない。忘れないというよりは許さない。関西人全員が明るいわけもないしお笑いが好きなわけでも、誰しもがボケとツッコミをするわけでもない。ただ、笑いのカテゴリを馬鹿にされると無性に腹立たしいことは事実だ。  アイランド型のホームに着き、既に片方のホームに停車している電車へと乗り込んだ。『なかもず』駅は終点駅でも始発駅でもあるため、この駅にいる間、車内はがらがらであることが多い。こと、昼過ぎは車両に数人しかいないこともある。今の私にはかえって好都合だ。  端の席に座って、胸ポケットから抜いた手紙の封を切って、三つ折りの書面を取り出した。  いつも冒頭に筆記体で書いていたHELLO WORLD!!はその手紙にはなかった。頼んでもいないおすすめの書籍のことも、近況についても何も書いてなくて、そこにあったのは路頭に彷徨(さまよ)った旨を記した言葉だけだった。  状況が飲み込めないまま、気がつけば『なんば』駅に着いた電車の扉が開く。手紙を握ったまま慌てて降りた私はホームの壁際まで歩くと、スマートフォンを動かしてある人間に連絡を試みた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!