VSたぬき

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VSたぬき

 たぬきに向かって飛び込む僕へ、たぬきはバスターソードを振り下ろす。ナイフでバスターソードを受け止めるが、払いのけられ軌道を反れる。吹き飛ばされた僕は咄嗟に、冒険者の服に携帯されていた簡易式クロスボウを取り出し、矢じりに僕の血液を塗って狙い撃つ。  たぬきは翼を広げ羽ばたき、上空へ舞い上がり矢を回避する。僕を見下ろすたぬきの瞳は冷たく突き刺すようだった。 「知ってたよ、そんなことくらい」  ぼそりと小声で呟いたたぬきの声を、僕のうさ耳は拾い上げてしまう。ゾクリとする寒気と共に高揚感で奮い立たせられ、何故かフェロモンが溢れ出す。  冷静になれ、落ち着けと僕は僕の胸を押さえつけ、湿った深い吐息を吐き出す。 たぬきは分身を2体召還すると、バスターソード片手に持たせ僕に向かって突撃させた。 ズガアアアア!! 「うわぁ……」  振り下ろされる剣を回避するが、このまま分身を使った戦闘を続けられたら体力が持たない。何とかして本体を引きずり込もうと考えるが、上空にいる本体を狙ってもひらりと回避されてしまいそうだ。さっきの黄緑色の髪の女天使のときはクーウェルお姉さんがいたから何とかなったけれど、今は僕ひとり。路地裏に逃げてあのたぬきの体よりも大きそうなバスターソードの暴れ技を封殺する。が、そんなことお構いなしに路地裏でぶん回されるバスターソードに僕は抵抗できない。 「さすがにお構いなし過ぎるよ……」  家屋の壁を三角跳びして屋根に飛び乗る。ナイフのトリガーを握りしめ、路地裏をフェロモン塗れに染めてたぬきの分身の動きを鈍らせた。 「ふーっ……こっちこっち」  僕は分身を手招きして、路地裏を脱出して教会へと走る。すかさず僕を狙って教会へ突入するたぬきの分身2体を、散布させたフェロモンで対抗する。 「ぐうう……」 「分身でもたぬきちゃんはたぬきちゃんだよね……答えてよ……」 「知らない!! うさぎくんから悪魔の匂いを感じたからこっち側かと思ったのに……結局うさぎくんは天使で、私を殺すんでしょ!?」 「殺すって…………」  言葉が詰まった。ねこくんを救う為にはたぬきを殺さなければならないだなんて、少し考えればわかったのに僕は先走ってたぬきを襲っている。いや、あいつはねこくんを食べた、街を襲おうとした、その街で僕は天使に歯向かい悪魔にもなり切れないでいる……僕はどっちつかずだから誰も殺せない。たぬきだって本当は殺すつもりも無いのに、僕はナイフを向けて何をしているんだ。 「私は悪魔だから、天使を殺すの!!」 「なんで……!! たぬき、ちゃん……!!」
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