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「時代についていけない…」
「ちょっと、幸さん幾つですかそれ」
「お前はよく適応できるな。もう三十路なのに」
「サラッと傷つくこと言わないでもらえます!?」
それにしても、これはどうしたものか。
話の構成でいうと、悪くないと思う。
薄っぺらいテーマ性も何もない作品が何かと多い中で、これは伝えたいものがハッキリしている。
脚本家がいい仕事をしているな。
しかしいくら役に入るといっても、その土台となるのは自身の引き出しだ。
そして俺の中にはこの物語の人物のような思考がまるで存在しない。
別にそこまで形から入っていくタイプではないが、少し悩みどころである。
「あ、そうそう。この相手役の子。最近話題の雪永 千里くんみたいですよ」
「え」
一瞬思考が止まった。
そして少し間を置いて言われた事を理解する。
「雪永 千里って、あの雪永 千里か?」
「他にどのがあるのが分かりませんが…。今は月9のドラマで主人公の弟役で出てましたよね」
「僕あれ見てから彼のファンなんですよ〜」などと話している松尾はスルーして、考え込む。
そうか。彼が出るのか。
まぁまだオファーの段階だから受けるかどうかは決まっていないだろうが。
「……芝居の面で、言い訳もしたくないからな」
できないから、なんて理由で断るのもあれだ。
引き出しがないのなら、新たに作ればいいだけのこと。
「その仕事、受けることにする」
「お。やった〜、雪永くんに会える〜っ」
はしゃいでるおっさんは無視して、俺は再び台本へと目を通し始めた。
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