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 翌日、二人が目を覚ますと日はすっかり昇っていた。ヨロヨロと階下へ降りれば美代の姿はなく、朝食の用意と置き手紙があった。 『畑へ行ってくる。今日はゆっくり休みなさい』  二人はその言葉に甘えることにした。昨夜は子供達を助けるのに無我夢中で気がつかなかったが、全身が筋肉痛だったからだ。リビングでのんびりしていると、迷子になった子供達の親が入れ替わり立ち替わりやってきた。つるべは軽い捻挫だったと聞き、慎二と愁は「良かった」と微笑み合った。子供達の親から手土産をたくさん受け取り、その中に黒毛和牛の焼肉セットがあったので、昼間から縁側で焼肉とビールを楽しんだ。 「あちこち痛いけど、幸せだなぁ」 「うん。みんないい人たちだね。そういえば、避難グッズ。よくあったね」  慎二が「おお」と言って立ち上がった。 「ちょっと待って」  二階に上がった慎二が直ぐに戻ってくる。手には薄い雑誌を持っていた。 「これ見て」  表紙には「防災、防犯対策グッズ」と書いてある。ページをめくると、防災グッズの商品がズラリと並んでいた。 「俺が立ち上げた会社、実はこういうの売ってるの」 「へー! そうだったんだ。全然知らなかった。あ、じゃあ、昨日のも自社商品?」 「そう! いつも一セット持ってる。それこそさ、災害っていつ起こるかわからないじゃんね」 「本当にそうだよね。普段あんまり考えないけど、今回のことはよく身に染みたよ。備えあれば! だね」 「うん。それに、売ったら終わりじゃダメだと思うんだ。いざって時に使えなきゃ意味ない。だから営業で全国を回ってる。地道に足を運んで、企業なんかに時間を作ってもらったり、町の公民館で防災グッズの取り扱い方をレクチャーするんだ」 「そうなんだ。全国をかぁ~、楽しそうだね」 「楽しいよ。本当は、もう少し会社が軌道に乗ったら、愁を誘うつもりだったんだ。だからまだまだ軌道に乗ったとは言えないけど……それでも愁が一緒にやってくれたら嬉しい」 「うん。やる。営業スキルはないけど、経理は任せてくれていいし! 営業のこともいろいろ教えて下さい」  慎二に体ごと向け、愁は丁寧に頭を下げる。慎二が缶ビールを持った。 「おう。俺が社長で、愁が副社長な!」 「いきなり副社長なんて無理だよ~」 「いいんだよ。どうせふたりしかいないんだから」 「それもそっか」  慎二の缶に愁が自分の缶を当て、クスクスと笑い合う。 「かんぱーい」  慎二が缶ビールをグイッと傾け、愁を慈しむような眼差しで見つめた。 「……東京戻ったら、部屋、探さないか?」  突然の真剣モードの慎二は息を飲むほど格好良い。  愁の鼓動がドキッと弾む。  部屋を探すって、つまり二人で暮らすってことだよね。そりゃそうだよ。だって、今の慎二を見れば物理的な通勤距離云々で言ってることじゃないのは一目瞭然だもの。  そう思いながらも、分かっているけど、確かめたい。 「それって……一緒にって、こと?」 「そう。プロポーズ」  愁は手の中の缶ビールへ目を落とし、チラリと慎二を見上げた。 「うん。ありがとう」  嬉しさをうまく表現できず、愁は俯きはにかんだ。 「リビングダイニングの他に最低部屋は二つ欲しいよな。となると2LDK?」  広がっていく未来の地図に、愁は素直の気持ちを伝えた。 「なんだか楽しくなってきたね」
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