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「それにしても美代さんの助けができて良かった」  たぬきがやれやれといった調子で言った。 「ほんと三人が無事で良かった」  慎二の言葉にたぬきが「ちがうちがう」と人間のように前足を顔の前で振る。慎二と同じ気持ちでいた愁が首を傾げた。 「たーさん、なにがちがうの?」 「美代さんの強か強か祈りに触れて、ここで恩を返さんと! と、思うとった」  だからそれって子供達が戻ってきますようにって意味なんじゃないのかな?   どうにもたぬきの仕草が気になる愁がおそるおそる尋ねた。 「あの、美代さんの祈りって?」  たぬきは当たり前のように言った。 「孫の恋が成就しますように、という祈りばい」 「えっ!?」  たぬきの言葉に愁は今までのたぬきの言動全てが腑に落ち、ババババッと顔を赤くした。  どうりで交尾だなんだと事ある毎に言ってきたわけだ。あれはからかってたわけじゃなかったんだ! 「なにせ相手は同じ男だ」  たぬきが腕を組み、ウンウンと頷きながら続ける。 「そりゃそりゃ強か祈りやった」 「……あ、その……ありがとう」  愁は照れくささに俯きながら、ぼそぼそと礼を言った。たぬきがまた嬉しそうに頷く。 「愁がたぬきに愛着を持っとったから、こうやって話ができたちゅうこともある」 「うん」  たぬきの言葉に、やっぱり目の前にいるたぬきは、幼いころから自分を支えてくれた大好きなたーさんだと感じられた。 「そうだな。俺もたぬきの絵をニコニコ顔で描く愁を好きになった」  慎二を見上げれば、穏やかで愛情に満ちた笑みを浮かべている。愁はその手をそっと握った。慎二の笑顔。可愛いたぬき。緑いっぱいの景色と青空を眺める。澄んだ空気を愁は胸いっぱいに吸い込んだ。  ここに来て良かった。
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