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トントントンと優しい振動が伝わってくる。
「よう眠っとるね。あんまり寝ると夜眠れんくなるばい」
白いモヤの中目を開く。そこには老婆が優しく微笑んでいる。
「……はい」
部屋が明るい。時計を見ると二時半過ぎだった。一時間ほど眠ったらしい。「ゆっくりしとってよかけんね」老婆はそう言って部屋を出て行った。
愁は体を起こし、布団を畳み部屋の端へ寄せる。広くなった部屋。たったこれだけのことなのに、愁は少し自分らしく慣れた気がした。
窓から風が部屋に吹き込む。愁は低い柵のついた大きな窓辺に腰掛けた。
庭木の向こうに遠くの山々が見える。
「いい景色だ」
入ってくる外気が気持ちいい。
愁は新鮮な空気を体内に取り込んだ。今、やっと休養という意味に気づけた気がした。
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