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 神社の横には簡素な枕木で土をせき止めただけの階段がある。緑の絨毯と、両わきにはズラリと並ぶ杉の木がひかえている。その階段の先には壁のような大きな岩があった。不思議なことにぽっかりと大穴が開いていて、神々しい光がこちらへ射し込んでいた。  幻想的な風景に愁はしばらく放心状態で魅入ってしまった。元々、特別な信仰心は持っていない愁であったが、その存在を信じるに値する荘厳な光景だった。岩の伝承も、あんな大きな岩を蹴破れるのは鬼しかいないということなんだろうと納得してしまう。美代は神社の前で愁を見上げ穏やかな表情で見守っている。 「行くか」  階段を戻ってきた愁へ頷き、先を歩いて行く。あとについて一歩踏み出した時、背後でハッキリと声が聞こえた。 「シュウのは俺がもらっていい?」  さっきお供えしたばかりの団子の横にたぬきが座っていた。愁はたぬきへニッコリ笑って見せた。 「もちろん」  美代が振り返る。 「なにか言うた?」 「いえ」  返事をして、もう一度後ろを振り返るとたぬきは消えており、だんごもちゃっかり無くなっていた。  朝の散歩は食欲増進に繋がるのか、味噌汁、卵がけご飯、納豆、きゅうりの浅漬け、芋煮を愁は無理することなく平らげた。 「今日も一日、好きにしてよかばい」  美代はそう言い、なにやらおめかしして家を出て行った。近所の茶飲み友達と約束でもしているらしい。愁は部屋へ戻り、窓を開けた。爽やかな風が入ってくる。窓辺に腰掛け、ポケットからたぬきの人形を取り出した。おのずとたぬきを思い出す。  たーさん、だんごの味は気に入ってくれただろうか。お腹いっぱい食べてくれただろうか。
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