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思えば不思議な巡り合わせだ。
慎二からのプレゼントを手にした途端、たーさんとの出会いがあった。まさかたぬきと話すことができるだなんて。未だに不思議で仕方ないけど、それもこの人形が引き起こしてくれたように感じる。参拝の時、美代ばあちゃんにはたーさんの声は聞こえていないようだった。この人形を持つ、僕だけにしか聞こえないのかもしれない。
愁は妙な確信を得ていた。
階下でコツコツと小さな物音がして、廊下に目を向ける。美代ばあちゃんが扉をノックしているにしては小さな音。そもそも玄関に鍵は掛かってない。またコツッと音がした。愁は立ち上がり、階段を下りた。玄関は閉まったまま。ふと縁側を見ると、網戸の向こうにたぬきがいた。
「たーさん!」
愁の表情が輝いた。
「今朝はありがとよ。だんご美味かったぞ」
網戸の向こうでたぬきが立ち上がった。前足を網戸に引っ掛ける。開けて欲しいらしい。
「いらっしゃい、遊びに来てくれたの?」
愁は駆け寄り、網戸を開いた。
「うむ。木苺好きか?」
「キイチゴ?」
もちろん木苺を知らないわけではない。ケーキやムースに乗っているフルーツだ。ただ、その味はあまり記憶にない。たぬきは庭の木の根っこから、何かを咥えて戻ってきた。小さな木の枝には宝石のような赤い実が三つついている。
「可愛いね」
「本当はもっといっぱい持ってきたかったが、これが限界だった」
たぬきは縁側に前足をかけ、器用によじのぼりよっこらしょという感じに座った。
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