5/12
前へ
/127ページ
次へ
 思えば不思議な巡り合わせだ。  慎二からのプレゼントを手にした途端、たーさんとの出会いがあった。まさかたぬきと話すことができるだなんて。未だに不思議で仕方ないけど、それもこの人形が引き起こしてくれたように感じる。参拝の時、美代ばあちゃんにはたーさんの声は聞こえていないようだった。この人形を持つ、僕だけにしか聞こえないのかもしれない。  愁は妙な確信を得ていた。  階下でコツコツと小さな物音がして、廊下に目を向ける。美代ばあちゃんが扉をノックしているにしては小さな音。そもそも玄関に鍵は掛かってない。またコツッと音がした。愁は立ち上がり、階段を下りた。玄関は閉まったまま。ふと縁側を見ると、網戸の向こうにたぬきがいた。 「たーさん!」  愁の表情が輝いた。 「今朝はありがとよ。だんご美味かったぞ」  網戸の向こうでたぬきが立ち上がった。前足を網戸に引っ掛ける。開けて欲しいらしい。 「いらっしゃい、遊びに来てくれたの?」  愁は駆け寄り、網戸を開いた。 「うむ。木苺好きか?」 「キイチゴ?」  もちろん木苺を知らないわけではない。ケーキやムースに乗っているフルーツだ。ただ、その味はあまり記憶にない。たぬきは庭の木の根っこから、何かを咥えて戻ってきた。小さな木の枝には宝石のような赤い実が三つついている。 「可愛いね」 「本当はもっといっぱい持ってきたかったが、これが限界だった」  たぬきは縁側に前足をかけ、器用によじのぼりよっこらしょという感じに座った。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

606人が本棚に入れています
本棚に追加