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「違うよ、慎二はすごく良くしてくれるんだ。僕なんかのために一生懸命になってくれた。毎晩電話もくれるんだよ。すごく優しいやつなんだ」 「ほう。じゃあ聞き間違いじゃないな」  たぬきがたぬきのクセにニヤリと笑う。愁にはそう見えた。また妙な焦りが湧き上がる。愁は胸ポケットに入っているたぬきの人形をシャツの上からギュッと握った。  何を焦ってるんだろう。ただの戯言なのに。  たぬきはヨイショと体を起こし、両耳をピクピクと動かした。 「誰か来るな。そろそろ帰るか」 「また、来てくれる?」 「おう。こんどはヨモギだんごがいいぞ」  図々しいリクエストをするたぬきに愁は笑顔で頷いた。 「うん。美代さんに教えてもらうよ」  生垣の向こうの道路を走っていた自動車が静かに停まった。たぬきは縁側からピョンと降りると、体型には似合わない俊敏な動きで庭から出ていってしまう。車のドアの開閉音がした。宅急便かなにかだろうか? と玄関先を見ていると、ガサガサと庭の方から音がした。
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