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◇ ◇ ◇
塩コショウだけで味付けした、シンプルなあか牛のステーキ。鶏胸肉の唐揚げ。地元で買った新鮮な野菜のサラダ。白味噌のお味噌汁。キュウリの浅漬け。愁が休憩している間に慎二が作った夕食である。
「うわあ、豪華だね~」
「体力つけないとな」
ニヤリと笑う慎二に対して、愁は笑顔のまま固まってしまった。ただの冗談なのにうまく言い返せなくてステーキへ視線を落としてしまう。ジワジワ熱くなっていく頬。
ついに、慎二としてしまった。告白を受けてたった三日。純情ぶるつもりもないけれど、それまでずっと親友だと思ってた相手。さなかとはいえ、互いに気持ちを伝え合って体を重ねた。
きっと、もう。僕らは付き合って……るんだよね?
頭の中で一人考えたその内容に愁の頬は更に赤くなり、視線が落ち着きなく泳ぐ。慎二はケロッとした表情でそんな愁を見ている。
「食おうぜ。いただきまーす」
「うん。いただきます」
慎二の焼いたステーキは柔らかく、唐揚げも外はカリッとしていて中はジューシーでとても美味しかったが、愁は料理の味を百パーセント堪能できていなかった。「美味しい」と言いながらも、気はそぞろでチラリチラリと視線を上げ向かい側に座る慎二を盗み見する。
さっきまでの食らい尽くさんとする獣のような表情や、傲慢さ。威圧。あんなにも凄かったのに。もうすっかりいつもの慎二だ。
慎二の変貌を嘘みたいに感じながらも、しっかりと腰は重く下腹部には違和感が残っている。
……あんなことしたのに、こんな普通な感じで大丈夫なんだろうか。
慎二の様子に安堵しながらも、内心ではどこかソワソワとしてしまう。
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