第12章 いつか二人になる

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はらはらしながらそのままリビングに運ばれる。川田の部屋が正直あんまり広くなくて、廊下もごく短くて助かった…。 どさ、とやっとのことでソファの上に降ろされた。てっきりそのままセックスになだれ込むとばっかり思ってた。逸るようにのしかかってきてわたしを仰向かせ、押さえつけて何度か唇を重ねたあと川田はじっとわたしを抱きしめてそのままでいた。 「…川田?」 別に、一刻も早くしたいなんて思ってはいないけど。相手の意図を掴みかねてきょとんと名前を呼ぶ。 奴がわたしにしがみつく手に急に力がこもった。上手く言葉が出てこない様子を察して、わたしも無理に説明を促すのをやめた。どうしていいかはわからないけど、とりあえずその頭を片手でしばらくの間撫でる。川田はじっとそのまま呼吸を止めてわたしにぴったりと身を寄せていた。 「…よかった、また。…ここにお前が来てくれて」 やっと出てきた言葉がこれ。わたしはやや戸惑いつつも奴を安心させようと請け合う。 「来るよ、そりゃ。ちゃんと約束したじゃん。すっぽかすとでも思ってたの?」 「そういうわけじゃないけど」 川田は首を横に振ったのか、それともわたしの頬にすりすりと頭をくっつけたのか。どっちともつかない曖昧な動きをした。何にしろずいぶん今日はべったりと甘えてくるな。 「…俺がお前にしたこと。どう考えても一線を越えてたし。もうあれで信頼が失われて、二度とここでこうして会ってくれないかもと覚悟してないことも、…なかったから」 「…うー、ん」 ごく小さな掠れた声でぼそぼそと独白されて。わたしは思わず微かに唸ってしまった。 そんな風に思うなら最初からしなければいいのに。なんて割り切った行動取れないのが人間ってもんだって言われたら。それはそうかもしれないが。 奴は巨大な猫科の動物のように全身でずっしり、と体重をかけて更に強くすり寄ってきた。…重い。 「あいつを何とかして排除したい、ってそれで頭が一杯で。あんなの見せられたお前がどれだけ傷つくかって、そこまで気が回らなかったから。…あとでよくよく考えて、これはお前がぶち切れてもうあんたとは付き合えないって言い渡されてもも仕方ないなって観念してた」 そうだったのか。じゃあ、あの時点でそうしてた方がよかったかな、やっぱり。 とか冗談が通じそうな雰囲気でもない。わたしは諦め気味に大人しく奴の独白に聞き入った。 「茜が俺のこと許して、またこれまでと同じようにやり直そうって言ってくれて。…ほんとに、ほっとしたよ。俺の人生からお前がいなくなっちゃうかもって、そう思ったらもう目の前が真っ暗になって。今の今まで、少し不安だった。やっぱりやめる、って言われるんじゃないかって」 正直今からでも別にやめられるけど…。 でも、すっかり慣れた腕の中の感触は落ち着くし、居心地がいい。わたしはうとうとと眠くなった猫みたいに目を細めて奴の頭に頬を寄せた。 この体温があればわたしの心は充分慰められる。思えば激しいセックスも身体と心をかき乱される乱交も、それに較べたら二の次でいいや。 わたしを独占しようと画策のあまり、周りの人に矛先が向くのは困るけど。多分本気でわたしを痛めつけたり傷つけたりする気はない。そう信じられるから、こうして安心して身体を預けられる。 「…わたしも、あんたの気持ちに対して配慮が足りないとこがあったのかも。だからお互い。これからもう少し気を遣い合っていこう」 「うん…」 そう言って奴の耳許にそっと唇を寄せると、川田はぶるっと身震いして何故か目を閉じた。 それからわたしをそっとソファの上で安全な位置に横たえ、自分は足許の方へと身をずらしていったので、ああ、欲情したんだ、とその時初めてわかった。 「今はやだとか。気が乗らないとかなら、ちゃんとそう言えよ」 「そんなこと。…ないよ」 スカートをたくし上げて下半身を露わにしつつ、珍しくそんなことを尋ねる。やっぱりわたしの気持ちを慮ってくれてるんだな。まあ、そんな殊勝な考えがいつまで続くかわからないけど。 だけど下着のおろし方もいつもより丁寧で優しい。わたしたちの普段の行為は基本SM傾向にあるから。やや荒っぽくて意地悪で卑猥、ってのが通常運転だ。それをこれまでにないほど柔らかな手つきで脚を開かされ、これはこれで。…恥ずかしい、かも。 「や、…そんな。見ないで」 「なんで?すごい、可愛いよ。お前のここ」 顔をすごく近づけてる。羞恥で身を捩ると、そのまま両脚の付け根を押さえ込まれて舌と口でそこに吸いついてきた。 「あ、…っ、やぁ。…ん、っ」 「もう濡れて、開いてるな。俺に見られただけで感じちゃったのか。…ほんとに可愛いよ、お前は…」 くぐもった声でそう囁くと、あとは夢中でそこを舐めまくる。いきなりの行動に全然身構えができていない。そこから湧き上がる異様な快感にただ翻弄されて耐えた。 「あっあん、そこ、だめぇ…、舌挿れちゃ。いや、ぁ…」 「気持ちいいのか?中から熱いの、どくどく溢れてるぞ。…腰も動いてる。中、欲しい?」 身体の他のどの場所も全く触られてないのに。ここだけで、すごく興奮してたまらなく感じちゃう。わたしは切なさでわなわなと身を震わせた。 もうだめ。…奥にいっぱい欲しくて。頭おかしく、なりそう…。
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