第11章 俺とこいつ、どっちを取るの?

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第11章 俺とこいつ、どっちを取るの?

集まる場所をどこにするかでまず軽く悶着があった。 『お前の旦那の整体院に俺が行けばいいんだろ。送られてきた動画ってのもこの目で見て確認しなきゃいけないだろうし。お前と旦那も家から近くて、その方が都合がいいじゃん』 多分川田としては自分の部屋にわたしの夫が入ってくるのが嫌なのに違いない。気持ちはまあわからなくもないけど。わたしだって普段、自分があそこでどんな所業に及んでたのかを考えたら。そんな場所を星野くんに直に見られるのは何とも落ち着かない、身の置きどころがない気分だ。 そういう意味ではわたしだって整体院の方がまだ気が楽なんだけど。渋々と彼から伝えられた意向をそのまま口にするより他ない。 「…撮影された現場を確認したいからってことと。監視カメラがあるならその実物を見せて欲しいって。整体院のパソコンはノート型だからあんたの家へ持参できるし。そうするとわざわざこっちで会合する意味ないから、って」 何となく納得しない風に電話の向こうで低く唸ってる奴に仕方なく、駄目押しで伝える。 「これ以上調整つかないようなら。彼からあんたに電話してもらって二人で話し合って決める?あの人は最初からわたしを介さないで自分で直接川田と話すって。そう言い張ってたんだけど、実は」 そう告げると黙ってしまった。まあそうだろうな。こんな微妙な話。直に顔を合わせたこともないのにいきなり電話越しで男同士話し合いたいなんて思うわけない。 ただでさえ二人は何とも定義しようもない、複雑怪奇な間柄といえるし。まあ全てわたしのせいなんだけど、結局それは。 「…そしたら、彼に掛け合って直接会う機会を作ってもらえるよう頼みたいから。その川田さんの連絡先教えてくれる?いきなり僕から連絡が来たらさすがにびっくりするか。茜さんの方から、僕に彼の連絡先教えてもいいか訊いてもらってもいいかな?」 あの日、整体院での話し合いがひと段落ついた途端。方針は決まったとばかりに急にてきぱきと前向きに始動した星野くん。わたしは一瞬その切り替わりぶりについていけず慌てて口を差し挟んだ。 「いや、教えるなって言われる可能性ゼロじゃないから。そんなのいちいち了承取らない方がいいかも。…でもあの、あいつと会いたいならわたしが間に入って調整するよ。二人は知り合いってわけでもないのに。いきなり直に話がしたいんだけど、なんて言ったら向こうも警戒するんじゃない?」 正直な話、川田がどんな非常識なことを彼にぶちまけるか不安だ。最初から敵意丸出しで対応しそうな予感がして怖い。そう思って介入しようとしたけど、星野くんもそこは若干頑なになかなか譲ろうとはしなかった。 「きちんと丁寧に話すよ。彼に失礼な言動なんて取るつもりないし。だから、君はなにも心配しなくていいんだよ。話し合いに立ち会う必要もないし。もうこれ以上嫌な思いしたくないでしょ?あとは僕と彼に任せて。茜さんは安心して普通に過ごしててくれて平気だよ」 「いやいや、…そういうわけには」 親切にそう言われて焦る。わたしの頭越しに二人で顔突き合わせて話されても。 一体どんなやり取りがそこで交わされるかと思うと。…見ずに済ませるのもむしろ恐ろしい。 「星野くんからあいつに失礼があるかもなんて全然心配してないよ。どっちかって言ったら向こうの方が。なんか、どんな態度で接するか想像がつかないし。あいつがあなたに嫌な思いさせるんじゃないかなぁ、と。…思うと」 星野くんはそんなの想定済み、とばかりにけろっとして意に介さない。 「うん、彼からしたら僕に言いたいことはいくらでもあるだろうね。それは承知の上でのことだから。そういうことも含めて茜さんはもう、気持ちを煩わせる必要ないよ。これは僕と彼との話だと思う。二人の間で片付けなきゃいけないことだから」 そう言い切った星野くんの頭の中では、既に今回の件の真相が朧気ながらも見え始めてたのかもしれない。わたしとしても薄っすら予想できてないこともないが。 どうしてそうなる?って肝心のところがまだよく理解できない。そう考えたらやっぱりわたしにとってもこの話は終わってないんだ、と自分に言い聞かせ改めて気持ちを奮い立たせた。 「わたしもその場に立ち会うよ。二人に任せてそれであとはぬくぬくと引っ込んでればいいとも思えない。そもそもこんなことになった元凶はわたしにあるわけだし。ちゃんと最後まで、見届けさせて」 結局押し問答の末、わたしも話し合いの場に立ち会うことになり、最終的には三人で川田の家で顔を合わせる取り決めが何とか成立した。
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