サンタへの手紙はどこへ行く?

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 新人サンタだった頃から、一世紀以上たった。僕は毎日、最後の一頭になった天界(てんかい)トナカイに跨り、雲の上で郵便配達をしている。日本では、お正月に子どもが大人からお金をもらう、お年玉文化が定着しているそうだ。  最近は、孫が祖父母に渡すケースも珍しくない。  最近、やせてるサンタが増えたのは、医学の向上により、医薬品の副作用で太る人は、珍しくなった。  サンタの定員は、各国の国会議員の人数と原則一緒だ。僕が日本担当のサンタクロースになったのは、地上人(ちじょうびと)(こよみ)では、西暦1890年(明治23年)。第1回帝国議会が開かれた頃だ。  当時の日本は、人口約四千万人。衆議院の定員は三○○人だった。  最近のサンタが羨ましい。天界(てんかい)トナカイも、三頭までは天界(てんかい)郵便局から、公費で養える。四頭以上になったら、自分の私費で用意する。  僕らの頃は、予算が不足したら、天界(てんかい)で、寄付を募ったりして、自分でやりくりしていた。それでも、助け切れなかった子がいた。悔やんでも悔やみきれない。  夕方の橙色が視界を埋め尽くす。天界(てんかい)トナカイが、僕に首を巡らす。 「君ともあと少しでお別れだね」  瞳には寂しげな色が宿っていた。もう引退した二頭の、天界(てんかい)トナカイは牧場で放牧だ。たまに牧場宛の手紙を便配すれば、猛烈な勢いで駆け寄ってきてくれる。角    郵便配達を終えた僕は、久しぶりにサンタクロース課に行く。定年退職近くになり、サンタクロース課長から講演依頼の手紙がきたからだ。  今日は、会議室に全サンタが集まる日だ。  サンタクロース課長に壇上で紹介されてから、四六五人のサンタたちを叱咤激励(しったげきれい)する。定員が、四六五人なのは、地上人(ちじょうびと)の衆議院定数と一緒だ。 「――当時、何人いたか知っていますか? 定員が、三○○人でした。それでも、職務を誇りに思って、自宅を売り払ってもしたのです。最近は一部の方ですが、地検特捜部に逮捕され有罪になったり、不透明な資金の動きがあったりして、けしからん。不倫とか……」 「先生、すみません。地上人(ちじょうびと)の政治に関する話題は、お止めください」 「課長、我々、天界(てんかい)のサンタクロースの話です」(完) 【参考HPウィキペディア。『第1回帝国議会 1890年(明治23年)』『国勢調査以前の日本の人口統計・明治23年1月1日 39,902,000』『第1回衆議院議員総選挙 定員三○○人』】
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