1人が本棚に入れています
本棚に追加
精霊師の男とアジロは橋を渡り切った。
島に建つ白くて四角い工場は、清潔感があり、自然に囲まれた湖の中で幻想的に浮かび上がっていた。あるいはそれは、精霊が中にいるからかもしれない。
ふたりは工場の中に入った。工場のフロントには加工前の巨大な精霊石が飾られていた。形は歪だがキラキラと輝いている。この精霊石がこの国の大小さまざまな機械を動かしている。
その輝きに魅入られるようにしてアジロは立ち止まったが、精霊師の男が先にいってしまうのを見て慌てて追いかけた。そのままさらに奥へと進む。従業員と思われる人は、思いのほか少なかった。
「さて、そろそろきみの受ける試練について説明しておこう」廊下を歩きながら精霊師の男が言った。「さきほども言ったが難しいことではない。この工場に住む精霊と触れ合う、それだけだ」
「それだけ?」と言ってからアジロは疑問に思った。「いや、それだけって言うけど、見えもしない精霊とどうやって触れ合うんだよ」
「じつは精霊にはいろんな形がある。状態と言ってもいい。精霊はあちら側とわたしたちのいるこちら側のあわいに存在しているが、どちらの近くにいるかであり方に変化があるのだ。こちら側に近づくほど精霊はその姿を具象化し、我々への影響力も強くなる。いや、すまない。難しい説明は抜きにしよう」
精霊師の男はアジロが難しい顔をしていることに気がつき、ひと呼吸置いてから言い直した。
「つまりだな、この工場にいる精霊はきみのような霊質が弱い者にでも見えるのだ。そして、そういう精霊と関わった者は高い確率で霊質が強くなり、精霊が見えるようになるのだよ」
「マジかよ。そんなすげー方法があったなんて」
「精霊はあらゆる現象を引き起こし、精霊師はそれをコントロールする。霊質を開花させることなど雑作もないことなのだよ」
最初のコメントを投稿しよう!