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感動している様子のアジロを精霊師の男は導いた。
やがてふたりは重厚な扉の前にやってきた。精霊師の男が鍵を取り出して扉を開ける。中は何もない部屋で、奥にはもうひとつ、さらに重々しい扉があった。精霊師の男は鍵を使ってその扉の施錠を解き、ドアノブに手をかけたところでアジロに振り向いた。
「ここが精霊のいる部屋だ」
そう言って精霊師の男は扉を開けた。
扉の先はまっしろだった。初めは霧がたれ込めているのかと思ったが、冷たい感じはしないし霧にしては白すぎる。甘い空気がゆっくりと漏れてきて、まるであたたかいミルクで満たされているかのようだった。入ってしまえば、おそらく視界は白い空気で何も見えないだろう。
「この部屋に一時間ばかりいれば、きみの霊質は開花するだろう」と精霊師の男は言った。
「こんなところに、一時間も?」
「怖いかね?」
「おじさんも一緒にきてくれるんだよね?」
「いいや、ひとりで行くんだ。これはきみの試練なのだから」精霊師の男はアジロの前で屈みこみ、目の高さを合わせて言った。「いいかね? イメージするんだ、この試練を乗り越えた先のことを。きみは今日、この試練で強い霊質を手に入れ、精霊が見えるようになる。それからきみは修行をして精霊師になる。いろんな精霊を研究して、その利用法を編み出して、たくさんの人の役に立つ発見をいくつもする立派な精霊師だ。そしてそのあかつきには、きみは弟を生き返らせる方法を発見する。その偉大な夢は必ず叶う。今日はその歴史的な第一歩なのだ。その一歩をきみはどうする? このチャンスをものにして前進するのか、それとも足踏みをするのか。それはきみの勇気しだいだ。さあ、どうするかね、アジロくん」
それを聞いたアジロは、白い空気で満たされた部屋を見つめた。
アジロは決意を固めていた。
「おれ、行くよ」
「うむ。きみは必ずやこの試練を乗り越えるだろう。行っておいで」
精霊師の男はアジロの決意を後押しするように厳かに、しかし笑顔で言った。
アジロは黙ってうなずき、精霊のいる部屋、渦巻く白に向けて一歩を踏み出した。
いや、踏み出そうとした。
そのときだった。
「ちょっと待ってくれないかい、アジロくん」
聞き覚えのある声が背後から聞こえて、アジロは振り向いた。
ハルジオとニイザが、そこに立っていた。
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