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「何をいい加減なことを」
そう言いながら精霊師の男はじりじりと動いたが、それに合わせるかのようにニイザがわずかに姿勢を変えたため、動くのをやめた。
精霊師の男とふたりの距離は4、5メートル。
張りつめた空気が部屋に満ちていた。
「いい加減じゃない。ぼくたちはこの工場について調べて回ったんだ、この三日ほどね。それで、この工場にいる精霊が何かわかった。この工場、つまりその部屋の中にいるのはユメミカゲという、生き物の魂を食う精霊だ。だからその部屋に入った者は、ユメミカゲに魂を食われて死ぬ。だからアジロくん、その部屋から離れるんだ。その白は危険だ」
「バカな」と精霊師の男は言った。「アジロくん、わたしから離れてはいけない。やつらはこの工場に不法侵入するような輩だ、何をするかわかったものではないぞ。その証拠にあいつの言っていることはデタラメだ」
精霊師の男はハルジオを睨みつけて続けた。
「つまりきみはこう言いたいのかね? わたしはアジロくんを殺すために、彼にこの部屋に入るよう促したと。だが、なぜそんなことをする必要がある? 今日会ったばかりのこの子を殺す理由などわたしにはない。それにその部屋にいるのはユメミカゲではなくハクウン。雲のようなものを発生させるだけで人への直接の害はなく、近づいても安全な精霊だ。もしや、きみたちは何か勘違いをしているのではないかね?」
「まあたしかに、どんな精霊がそこにいるかなんて一般の人には証明のしようがない。でも、それはあなたも同じだ。その部屋にいるのがユメミカゲではなくハクウンだと、どうやってアジロくんに証明する? それにアジロくんをユメミカゲに食わせる理由ならある」
「とんだ言いがかりだ。そもそもきみが本当に精霊師かどうかも怪しい。いったい何を企んでいる? 目的はなんだ?」
「少し黙ってもらえませんか?」とニイザが言った。
ニイザのそのひと言で部屋に一瞬の静寂が訪れた。
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