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アジロは自分が緊張していることに気がついた。大人同士の言い争いは怖かった。自分の心臓の鼓動が聞こえるようだった。空白のようなこの時間に、アジロはニイザを見た。
ニイザは、口元を微笑みの形にしてアジロを見ていた。その丸い目はやさしいような気もしたし、やはりただの無感情なような気もした。
一瞬の静寂ののちに、ニイザは言う。
「アジロくん、わたしに言わせればあなたは今まさに人生の岐路に立っています。その部屋に入るか入らないかで、まったく違う未来にたどり着くでしょう。そのような重要な決断を勢いのままにするというのも、ときには必要なことだとわたしは思います。いろいろ考えたあげく何もできずに終わるというのは、人間によくあることですから。ですがわたしたちは、アジロくんはその部屋に入るべきではないと確信を持って思っています。よかったらその理由を聞いてくれませんか?」
アジロはしばらく黙り込んだが、やがてニイザにうなずいた。
ニイザはにっこりと笑って言った。
「それではハルジオ、ご説明を」
「あ、やっぱりぼくがするんだね」とハルジオ。
「当たり前でしょう?」
ハルジオは「やれやれ」とでも言うように肩をすくめてから、真剣な表情で話し始めた。
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