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「そもそもの始まりは、この工場から感じる違和感だった。まあ、それを感じたのはぼくじゃなくてニイザなんだけど、それはともかく、この工場に具象化した精霊がいるらしいということはすぐにわかった。しかもこの工場では精霊石を人工的に作っているという。とくれば、精霊を使って精霊石を作っているのだろうと想像がつくわけだけれど、精霊を使った精霊石の生成ってたいていは裏があるんだよね。コストが膨大だったり何かを犠牲にしていたり、何かしら問題があるんだ。だからこそ人工的に精霊石を作る試みは失敗するし、今のところ実用化にはいたっていない。果たしてこの工場はどうだろうか、とぼくは思った。それでぼくたちはこの工場を調べさせてもらった。
その結果はさっきも言った通り。この工場にいるのはユメミカゲという精霊だとわかった。細かい技術まではわからなかったけれど、ユメミカゲが生成するマナを結晶化することで精霊石を作っている。そのために言ってしまえばユメミカゲを飼育しているわけだけれど、問題はユメミカゲの食べるもの。これも繰り返しになるけれど、ユメミカゲの食べるものは、生き物の魂だ。
だけどもうひとつ、ある事実がある。
ユメミカゲが好んで食べるのは希望を胸に秘めている人間、言い換えれば、夢を見ている人の魂なんだ。
ここで夢の話しに繋がる。この国では夢や希望というものを妙に絶対視している。夢を見ることはいいことで、夢は絶対に叶うと信じていて、そして実際に大人たちは自分の夢が叶ったという。それは子どもたちに夢を見させてユメミカゲに食わせるためなんだ。
そうやって育てたユメミカゲはマナを生成し、それをもとに精霊石が作られる。精霊石のおかげで機械文明は発展し、生活はゆたかになり、国はますます夢と希望で溢れていく。大人たちはこのシステムがわかったうえで子どもたちに夢を見させている。この国の繁栄は、子どもたちの夢を食い物にして成り立っている。
しかもここがある意味うまいところなのだけれど、ユメミカゲに食わせるのは、叶いそうにない大きな夢をもった子どもだけなんだ。そうやって間引きすれば現実的な夢を持った子どもだけが残り、その子たちは夢を叶えていく。ほら、これなら夢は絶対に叶うだろう? 大人の言うことは間違っていないわけだ、ある意味ではね。
とまあ、ここまできたところでアジロくんの話しに戻そう。アジロくんの夢は精霊師になって、亡くなった弟さんを生き返らせることだ。ぼくは100%不可能だとは断言しないけれど、これは常識的に考えれば叶いっこない夢だ。だからアジロくんは、ユメミカゲに食わせる子どもの候補として名前があがっていた。現実を知り、この夢は叶わないと絶望する前に、リストの子どもはユメミカゲに食わせられる。今のアジロくんがまさにそれだ。その男は、夢と希望に満ちたアジロくんの魂を食わせるために、アジロくんをその部屋に入れようとしているんだ」
ハルジオはここまで一気に話し終えると、ひと呼吸置いてから告げた。
「さて、これでぼくたちがアジロくんを止める理由がわかったかな?」
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