その工場は夢を見る

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 家の近くまできたところで、少年は湖の道から離れた。街中に入り、一軒家の立ち並ぶ石畳の道を歩く。少し進むと一階が喫茶店になっている三階建ての家がある。それが少年の家だった。  扉を開けて中に入ると少年の父親が店内にいて、見慣れない男女ふたり組の客と談笑をしていた。いま店にいる客は、そのふたりだけだった。 「おかえり」少年に気がついて父親は言った。 「ただいま」と少年も返した。  そのやり取りを見ていた客のひとりが訊ねた。 「息子さんですか?」 「はい、アジロって言います」 「アジロです。こんにちは」少年は自分でも名乗り、客に挨拶をした。 「こんにちは、アジロくん。ぼくの名前はハルジオ。こっちはニイザだ。よろしくね」 「はい」  アジロはふたりの客を順番に見た。  ハルジオと名乗ったのは、二十代中頃の男性。彼は少しくたびれて見えたが、おだやかでやさしそうだった。  もうひとりのニイザは、十六歳くらいの少女。彼女の雰囲気はひと言で言うと異様だった。表情としては微笑んでいるのに目に感情が宿っていない。顔立ちが整っているだけにその姿はまさに人形のようだった。  ふたりがどういう関係なのかアジロにはよくわからなかった。兄妹には見えないし、まさか恋人同士というわけでもないだろう。たまたま同じテーブルに居合わせた赤の他人と言われても納得してしまうかもしれなかった。 「ふたりはいろんな国を旅してきたらしくてね、その話しがおもしろくていろいろ聞いていたんだ」と父親が説明した。 「ずっとふたりで旅してきたの?」  アジロが訊ねると、ハルジオが答えた。 「旅を始めてからかれこれ七年くらいになるね」 「そんなに長く」 「過ぎてしまえばあっという間だったけどね」
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