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白い空気の部屋に投げ飛ばされ、アジロは床に叩き付けられた。
その痛みでうずくまったが、すぐにハッとして起き上がる。
ハルジオによればここには魂を喰う精霊がいるのだ。早くこの部屋から出なければならない。
アジロはあたりを見回して部屋の出口を探した。しかし周りは一面の白だった。自分の手すらまったく見えない。ねっとりとした白い空気に、アジロは包まれていた。
「ウソだろ……」
アジロは思わずつぶやいた。それから叫んでみた。
「ハルジオ! ニイザ!」
しかし返事はなかった。
自分のその声は反響して、アジロ自身に返ってきた。しかも前後左右、いろんな方向からから聞こえてくる。それはまるで、周りにいる何人もの自分が順番に声をあげているような、奇妙な聞こえ方だった。
反響が終わると静寂が戻った。自分以外に音源となるものはここには何もない。呼吸や心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
アジロは手を伸ばしながら扉があるはずの方向に歩いてみた。一歩、二歩、三歩と、慎重に歩き続ける。しかし手探りに伸ばした手は、いつまで経っても何も触れない。扉どころか壁にさえたどり着かない。進む方向を間違えたのだろうか。それにしたっていつまでも壁に当たらないのはおかしい。いったいこの部屋は、どれだけ大きいのだろう。
不安になってアジロは立ち止まった。
自分がいったいどのあたりにいるのか、アジロにはもうわからなかった。
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