その工場は夢を見る

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 そのとき店の扉が開いて新しい客が入ってきた。近所に住んでいる顔なじみの客だ。アジロの父親は「ちょっと失礼」とふたりに一礼するとテーブルから離れ、新たに入ってきた客の対応を始めた。顔なじみの客と父親の砕けた会話で、店内は少しにぎやかになった。 「常連さんかな?」客と父親のやり取りを見てハルジオが訊ねた。 「父さんの友達。この時間によくくるんだ」 「そういうのちょっと憧れるな。旅をしていると行きつけの店とか、いつも会う友達とか、なかなかできないからね。だからって旅をやめるつもりはさらさらないんだけど」 「旅が好きなのか?」 「いや、どうだろう」ハルジオは少し考えてから言った。「好きとか嫌いとかじゃないかな。すでに生きることそのものって感じだから」 「よくわかんない。好きじゃないならやめればいいじゃん」 「そうかもしれないね。でも他の生き方を知らないからさ」  意味深な言葉にアジロは首をかしげた。  ニイザのほうは見るからに不思議な雰囲気だけど、話しを聞いてみるとハルジオも負けていないかもしれない。ハルジオはなんだか、形の定まらない雲みたいな人だった。
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