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「おっと、もうこんな時間か」とうとつにハルジオが言った。「そろそろ店を出ようか、ニイザ?」
ニイザは微笑んだままうなずいた。
「というわけで、アジロくん。ぼくたちはそろそろ行くよ。もっとこの国を見て回りたいしね」
そう言って立ち上がったハルジオは「あっ、そうだ」と思いついたように言った。
「この国で見ておいたほうがいい場所とかものはあるかい? なんでもいいんだけど」
「それなら、憩いの湖にはもう行った?」
「憩いの湖?」
「そう。自然に囲まれた湖なんだけど、湖の真ん中に工場が建っているだ。その風景がけっこう不思議な感じで、おれは好きなんだけど」
「その工場はいったい何の工場なんだい?」
「精霊石を作っている工場だよ」
「作っている? 加工しているって意味かな?」
「違うよ、人工の精霊石を作っているの」
「それはすごい。この国には精霊石を作る技術があるのか」
「この国の自慢だって、大人はみんな言っているよ」
「それはたしかに一度見てみたいな」
「あー、でも工場は立ち入り禁止だから、中は見られないよ?」
「それでも構わないよ。その工場のある湖はどこにあるんだい?」
「店を出て右にまっすぐ行けば着くよ。そんなに時間はかからない」
「ありがとう。それじゃあ行ってみるよ」
ハルジオが飲み物の代金を支払い、ふたりは店を出ていった。
ニイザが去り際に微笑みかけてきた気がしたが、気がしただけだとアジロは思い直した。彼女はずっと微笑んでいた。単に目が合っただけだ。
ふたりが去ったあとの店内には、父親と常連客の笑い声が響いていた。
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