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翌日もアジロは、湖の道を通って学校から家に帰った。
家に帰ると、今日はアジロの母親が喫茶店の店番をしていた。
「おかえりなさい」帰ってきたアジロに母親は言った。
「ただいま」とアジロも返事をする。
言い終えて間もなく、アジロはひとりの客に気がついた。
テーブル席にハルジオが座っている。彼はアジロに向かって小さく手を振った。
「またきたんだ」ハルジオのいるテーブルに近づいて、アジロは言った。
「ここのコーヒーの味が忘れられなくってね」
そう言ってハルジオはカップを軽く持ち上げた。黒茶色の液体が小さく揺れる。砂糖はどうかわからないが、少なくともミルクは入っていないようだった。
「今日はひとりなの?」
「ニイザなら別行動だよ。それぞれ気になるところを見て回ろうってことになってね」
「いつも一緒ってわけじゃないんだ」
「違う人間だからそういうこともある」
「ふうん」
「そういえば、アジロくんオススメの湖、昨日見たよ。たしかに不思議な雰囲気だった。なかなか興味深い場所だね、あそこは」
「本当? 楽しめた?」
「もちろん」
「よかった」アジロは胸を撫で下ろした。「じつはさ、この国と言えば博物館とか美術館とか文化的なものっていうの? そういうのをふつうは勧めるのに、いきなりあんな湖を言っちゃったもんだから、あとからどうなんだろうって思ってたんだよね」
「大丈夫、ちゃんと楽しめたよ」ハルジオは笑った。「ちょっとした発見もあったしね」
「発見? 何かあったのか?」
「まあね。この国を回ってみて驚いたんだけど、この国は本当に機械の技術が進歩しているね。しかも、機械が人々の生活に浸透している。それはあの工場で精霊石が作れるからなんだね」
「そういえば精霊石を作れるようになって生活がゆたかになったって、大人が言ってたな。あの工場ってそんなにすごいものなのか?」
「革命的と言っていいね。機械を動かすためには精霊石のマナが必要だけど、本来精霊石はもっと貴重なものなんだ。だから日常的に機械を動かすなんてなかなかできることじゃない。ところがこの国ではあの工場で精霊石が作れるから、どんどん機械を動かせる。おかげで便利な生活が送れるというわけだ。だからあの工場は、この国の土台を支えているんだよ」
「へぇー。実感なかったけど、あの工場ってすごかったんだな」
アジロがそう言ったところで、ふたりの会話に母親が加わった。
「そうよ。あの工場はみんなの夢を支えているの」と母親は言った。
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